概念をシフトさせるイノベーション

 未来の歴史の教科書は、21世紀を代表するイノベーションとしてiPhoneを挙げるのではないだろうか。人類は世界中の情報にアクセスできる手のひらサイズの端末を手にし、社会は大きく変化した。スティーブ・ジョブズはiPhoneを「電話の再発明」と表現したが、「電話」の概念はやがて「スマートフォン」へと塗り替えられ、「通話端末」から「無限に情報を入出力できる端末」というイメージへと変貌した。

 イノベーションとは、新しい製品・サービス、技術やビジネスモデルなどを通じて、社会に新しい価値を創出するものだ[注1]。イノベーションは時に莫大な富をもたらし、社会の未来の姿を変えることもある。その代表格である「イノベーションとしてのiPhone」をあらためて振り返ると、2つの重要な側面が浮かび上がる。

 一つは、「新しい価値を創出した」ことである。当時のアップルは、その価値を「電話のできるiPod」という概念で表現していた。つまり、音楽再生機や携帯電話の延長線上にある概念としてその価値をとらえていた。携帯電話とiPodの双方を持ち運んでいた人が多かったことから、アップルはこれらを統合することに新しい価値を見出した[注2]