Juj Winn/Getty Images

2021年1月6日に起きた連邦議会議事堂占拠事件は、米国民主主義の崩壊を象徴する出来事であった。ビジネスリーダーたちは、民主主義のさらなる腐敗を招くこともできるが、再建を担うこともできる。カネの力ではなく民意に基づく政治が行われるように、みずから変革に向けた行動を起こすべきだ。本稿では、そのための3つの行動を提示する。


 信頼と真実――この2つの要素は、民主主義を機能させるためにも、強力で安定した経済を維持するためにも欠かせない。

 2021年1月6日に起きた連邦議会議事堂占拠事件のあと、さまざまな企業が政治献金を停止したり、一部の議員に献金の返還を求めたり、(プラットフォーム企業の場合は)憎悪や暴力を助長するグループが自社のサービスを利用することを禁じたりしている。

 このような行動は正しい方向への一歩ではあるが、これだけでは十分にはほど遠い。連邦議会議事堂占拠事件により、米国の民主主義が落ちるところまで落ちてしまったことが浮き彫りになり、ビジネスリーダーたちはようやく危機感を抱いたと言うべきだろう。

 いま米国の産業界は、政治との関係をリセットし、ドルの力ではなく民意に基づく政治が行われるように、行動を起こすべき時期に来ている。

 2020年夏、人種間の不正義に対する激しい抗議活動が湧き上がり、米国の世論は企業に行動変容を求めるようになっていた。そして、2021年1月の連邦議会議事堂占拠事件を機に、人々はビジネスリーダーに対して、選挙で選ばれた政治家の代わりに明確な立場を取ることを、さらに強く求め始めたように見える。

 非営利団体ジャスト・キャピタルの最近の世論調査によると、54%の人(共和党支持者と民主党支持者の両方)は、民主主義を堅持するための行動に関して、政治家よりも企業のCEOのほうが期待できると答えている。

 しかし、ビジネスリーダーたちがこうした信頼にふさわしい行動を取るためには、まず自分たちの倫理基準を修正しなくてはならない。

 トランプ政権の日々、多くのCEOは、大統領が白人至上主義と人種差別を煽り、コロナ禍で偽情報をまき散らし(その結果として何十万人もの命が失われた)、気候変動を否定し続けていたのに、見て見ぬふりをしていた。倫理観を重んじたリーダーシップを振るうことよりも、税制優遇措置と株式市場の上昇相場の恩恵に浴することを優先させていたのだ。

 良識と法の支配への攻撃が再三繰り返されていたにもかかわらず、ビジネス界のリーダーたちが沈黙し続けたことが、連邦議会議事堂占拠事件を容認する空気をつくり出す一因になったことは、否定できない。

 ビジネスを行うための安定した環境が脅かされていることが明白になり、ようやく一部のビジネスリーダーが声を上げ始めた。

 そのような行動を「少なすぎて、遅すぎる」(too little, too late)と片づけるのは簡単だが、それよりも、ビジネスリーダーたちの怒りの感情を――そして、みずからが共犯者になってしまったことに対して抱いているかもしれない恥の感情を――うまく活用したほうがよい。いま生まれつつある新しい動きを弾みにして、有意義な変化を起こすべきなのだ。

 対症療法的で断片的な対応では、十分な成果を上げられない。ワシントンの政界で企業がどのような行動を取るべきかに関して、これまでの発想を根本から転換する必要がある。

 具体的には、企業が政治献金を行うためにつくる政治行動委員会(PAC)を解体し、業界団体の活動とロビー活動に終止符を打ち、そして連邦最高裁が2010年に下した「シチズンズ・ユナイテッド判決」を覆すための法整備を推し進めるべきだ。