コラボレーションにはコンフリクトが必要

 社内で部門を超えたチームワークを育むことは、古くて新しい課題である。しかも、その重要性は以前に増して高まっている。なぜなら、いまや事業環境のグローバル化や急速な変化に対応しなければならないからである。

 たとえば、多国籍企業にサービスを提供するには、地理的制約を超えた社内協力が欠かせない。顧客満足度を高めるには、R&D部門から物流部門まで、さまざまな部門が協力し合わなければならない。また、顧客が異なれば、ニーズも異なる。これにふさわしいソリューションを提供するには、複数の部門の協力が不可欠である。

 これにくわえて、厳しい競争を勝ち抜くには、より少ない人員で、より大きな業績を上げなければならない。つまり、目標を達成するために専門スタッフを使えるのは、ごく一部の恵まれたマネジャーだけなのだ。たいていは、優先課題、動機や手法が異なるさまざまな部門のスタッフと協力し、時には折り合いをつけながら仕事を進めなければならない。

 したがって、社内コラボレーションを実現することには非常に大きな意味がある。成功すれば、顧客への対応が一貫し、意思決定が迅速化し、資源を共有することでコストが削減される、もしくは斬新な製品が生まれる。そこで、社内コラボレーションのために何十億ドルも投じて、クロス・ファンクショナル・プロジェクトを実施しているが、十分な成果を上げている企業はあまりない。

 我々の経験から申し上げれば、社内コラボレーションに取り組む時、だいたい次のような戦略が用いられる。まず組織構造、ビジネスプロセスを変更する。部門の壁を超えたインセンティブを設ける。そして、チームワーク研修を実施する。

 たしかにこのような手法で、社内に遍在する「サイロ」を壊し、コラボレーションを生み出す企業もないわけではないが、たいていはわずかな効果が生じる程度で、多くは完全に失敗する(囲み「コラボレーションにまつわる3つの俗説」を参照)。

コラボレーションにまつわる3つの俗説

 部門横断的なコラボレーションを生み出すために、さまざまな施策が実施されている。このような取り組みの背景には、次のような考え方がある。ところが、これらは一見正しいようだが、実は間違っている。

[俗説(1)]
コラボレーションとはチームワークのことである

 多くの企業は、社員たちにチームワークを勉強させれば、コラボレーションが高まると考えている。そこで、人事部に手配させ、何百人ものマネジャーやその部下たちを2、3日間の集中研修へ送る。参加者たちは、一つの目標に向かってグループで努力したり、役割や責任の分担を明らかにしたり、あるいは行動規範に従って活動することを学ぶ。

 これはこれでよい。しかし、真のコラボレーションが実現するわけではない。というのも、まず組織のなかで最も深刻なコラボレーション不全が表れるのは、たいていは正式に組成されたチームではなく、にわかづくりのチームにおいてである。

 たとえば、R&D部門のエンジニアが、新しいプロトタイプをテストするために、製造部門に協力を要請したが、数週間も待たされているといったのがその一例だ。製造部門では、「R&D部門の連中は思い上がりもはなはだしい。いつも自分たちの仕事が最優先だと思っていやがる」と不満をこぼす。コラボレーションが必要なのは、正式に組成されたチームだけでないのは言うまでもない。

 また、コラボレーション不全は、必ずと言ってよいほど、そもそも職務や部門が異なることに起因している。異なる目標が与えられた人たちが、限られた資源を奪い合うという状況下において、研修で学んだチームワークなど、ほとんど役に立たない。

 問題解決よりも礼節を重視し、さらに目標を共有することの重要性を繰り返し説いている組織では、コンフリクトは修復不可能になる。多くの場合、コラボレーションは同じ目標に向かって進むことではない。コンフリクトをうまく管理し、時には活用し、独創的な方法で素早く問題を解決することなのだ。

[俗説(2)]
インセンティブ制度がコラボレーションを実現する

「協力的な行動に報奨を出せば、互いに協力するようになるだろう」。たしかにもっともな考え方である。

 たとえば営業部門ならば、部門の売上目標だけでなく、クロス・セリング(抱き合わせ販売)の成果にもボーナスを出すわけである。ITや調達といったスタッフ部門ならば、ボーナスの一部を社内顧客の評価で決める。

 しかし残念ながら、このような制度もまず期待外れに終わる。営業部員は、金銭的インセンティブを無視して、自分の担当製品ばかり売り続ける。ITや調達のスタッフは、自分たちの優先事項ばかりを重視し、他部門には相変わらず非協力的である。

 なぜだろう。これは、各部員たちは自部門の成果に貢献してさえいれば、上司が厚遇してくれると考えているからであり、おおむね真実である。また、他部門と一緒に働くと、余計な時間がかかったり、イライラしたりする。このようなデメリットのほうが報奨より大きいのだ。

 的外れのインセンティブは部門間のコラボレーションをかえって阻害しかねないため、問題外であるが、いくら慎重に設計したインセンティブでも、目標が異なる人たちの間に存在する壁を取り払うことはできない。というのも、複雑な組織で最善の判断を下すには、数多のトレード・オフを調整しなければならない。そのためのツールとして、インセンティブ制度は有効性に欠ける。

 さらに、インセンティブを乱用すると、社員たちはいつも報奨を期待するようになるという弊害もある。コラボレーションを高めるためのインセンティブが、かえってコラボレーションを阻害することがままある。

[俗説(3)]
組織構造を変えればコラボレーションが実現する

 多くの人たちが、組織構造や業務プロセスを工夫すれば、社内コラボレーションが実現すると考えている。

 たとえば、クロス・ファンクショナル・チームを発足させたり、コラボレーション・ツールの一つであるグループウエアを導入したり、複雑な上下関係の組織に変更したりといった具合である。

 しかし、コラボレーションを起こすことと、単純に人と人を結びつけることはまったく異なる。次のような例を考えてみてほしい。

 ある企業では、各部門のIT担当者を切り離し、IT専門のシェアード・サービス部門に統合した。すると、さまざまな部門がわずかなIT資源をめぐって争い始めた。その結果、コンフリクトが起こる危険が高まった。

 あるシニア・マネジャーがこのことに気づき、新しい組織デザインに力を注いだ。彼は、コンフリクトが起こらず、コラボレーションだけが起こる組織を目指した。

 たとえばIT部門内のみならず、IT部門と各部門の間で協力的な意思決定が下されるように、IT部門に支援を要請する場合には、トラッキング・システムに入力するルールとした。

 この施策によって、IT部門のマネジャーは、プロジェクトの優先順位を考えて、資源を適正配分し、できるだけ多くの要請に応えられるようになるはずだった。このように苦心の末のプロセスだったが、結果はあまり芳しくなかった。

 各部門とIT部門の間では、プロジェクトの優先順位をめぐって、どうしてもコンフリクトが避けられなかった。そこで、各部門のマネジャーは、この新しいシステムではなく、IT部門の知り合いに頼んで要請を出すようになった。こうすれば、コンフリクトを迂回できる。

 その結果、IT部門のスタッフたちは、トラッキング・システムに入力されたプロジェクトは優先順位が低いと考えるようになり、結局システムは形骸化していった。コラボレーションを実現するためのプロセスだったが、コンフリクト・マネジメントをなおざりにしたために、その効力を発揮できなかった。

 なぜだろう。つまり、手法が間違っているのだ。コラボレーションしようとする時、たいていの企業は、たとえば「営業部門と配送部門の間には、もっと緊密な関係が必要だ」など、現象にばかり目を向ける。しかし、本当に注目しなければならないのは、コラボレーションがうまくいかない根本的な原因、すなわち「コンフリクト」(軋轢、対立)である。実のところ、この問題と向き合わない限り、コラボレーションは実現しない。

 こんなことをお話しすると、酸いも甘いも知り尽くした経営幹部ですら驚かれるかもしれないが、複雑な組織構造にはコンフリクトがつきものであることはあまり理解されていない。また、たとえわかっていても、コラボレーションがうまくいけば、コンフリクトは収まるものだと思い込んでいる。ところが実際には、コラボレーションを推し進めれば推し進めるほど、かえってコンフリクトが深まったりする。