変革を始める前に「説得作戦」を展開せよ

 変革の必要性に迫られると、経営陣はたいてい決まり切った対応をする。まず戦略を一新する。次に、容疑者の一斉検挙と言わんばかりに、3P、すなわち「人材」(people)、「報酬」(pay)、「業務プロセス」(process)に手をつけ、スタッフを入れ替え、インセンティブを調整し、非効率を排除する。こうして業績が上向くのをじっと待つわけだが、どういうわけか、結果ははかばかしくなく、失望を味わわされる。

 変革を成功させるのがこれほど難しいのはなぜか。そもそも、ほとんどの人は自分の習慣を変えたがらない。「以前うまくいっていたのであれば、いまもそれでよいではないか」というわけだ。切迫した危機感がなければ、社員たちは何も変えようとしない。

 また、トップが頻繁に交替すると、変革への抵抗感はいっそう強まる。失望と不信が長引くと後遺症が出る。再建を任された次期トップを前のトップと大差ないと思い込み、あだ花に終わる運命だと頭から決めつける。犠牲や自制を求めても、返ってくるのは冷笑と懐疑、条件反射的な抵抗である。

 我々が実施した企業変革に関する調査では、多国籍企業や官公庁、非営利団体、見事な活躍を見せた遠征登山隊や消防士のチームなど、その対象は多岐にわたっている。この調査結果から変革を成功させるには、経営陣は有効な「説得作戦」を立てたうえで、これを実践しなければならないことがわかった。

 この作戦は、再建計画が最終決定される数週間前、いや数カ月前に始めるべきである。経営陣にすれば、最初から大仕事となる。社員たちが手厳しいメッセージに耳を傾け、思い込みを疑い、新たな行動を検討するよう仕向けなければならないのだから。

 これは、微妙なステップを慎重に踏んで、社員たちに染みついている旧弊を改め、新たな行動を起こすための環境づくりを意味する。この環境づくりは、再建計画に着手した最初の数カ月の間に積極的に管理する必要がある。この時期は不確定要素が多く、一時的な後退が避けられないからだ。それができなければ、継続的な変革の見通しは暗い。

 大まかに言うと、説得作戦は政治家の演説と同じように、従来との違いを訴えるものである。変化を忌み嫌う社員の目には、再建計画はどれも同じに映っている。再建を担った経営陣は、今回の計画は前任者たちのそれとどこが異なるのかを正しく伝え示すのがコツである。

 組織が瀕死の状態にある、あるいは、何とか持ちこたえようとしているならば、少なくとも抜本的な変革は避けられないことを納得させなければならない。とはいえ、問題が何年もなおざりにされており、ほとんど状況が変わっていない場合であるとすると、相当やっかいである。