
ジェンダーダイバーシティの実現に向けた動きは着実に前進しているが、その進展はまだまだ緩やかだと言わざるをえない。筆者らは採用に焦点を当て、この問題を解決する方法を探った。その結果、非公式に作成する候補者リストを「長くする」ことが、ジェンダー平等に効果を発揮する可能性があることがわかった。採用を検討しているポジションに男性が多いと、その候補者にも男性を思い浮かべやすい傾向があるが、候補者リストを拡張することで潜在的なバイアスを解消できるかもしれない。
一部の業界では、特にトップの役職が男性に支配されていることは周知の事実だ。典型的な例がIT業界で、2020年に幹部レベルの役職に女性が占める割合はわずか10%だった。企業はジェンダーダイバーシティ(多様性)の問題を認識し、改善の意思を表明しているが、ジェンダー平等に向けた進展はひいき目に見ても緩やかだ。
『ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア』誌に掲載された筆者らの最新の研究では、企業の崇高な意思がなぜその程度なのか、理由の一つを明らかにしている。それは、「非公式な」採用プロセスの中にジェンダー不平等が内在しているからだ。
あなたはテクノロジー業界の採用マネジャーで、経営幹部の役職に就く人材を探しているとする。目標は、最高のパフォーマンスを発揮する候補者を迅速に見つけることだ。母校の同窓会で再会した人、以前のメンターが推薦した人、いとこが推薦した人など、有望な候補者が何人か思い浮かぶ。
正式な求人広告を出す前に、あなたは非公式な候補者リストを作成した。そして、これらの候補者に対しては意図的か否かにかかわらず、リストに載っていない候補者よりも関心があり、評価も高い。同様に、社内での採用や昇進、研修やリソースへのアクセスなど、正式な採用プロセスを経ないキャリアップの機会では、非公式の候補者が最終的に検討されることになる。
男性優位の職務における非公式な候補者リストの問題点は、その職務に男性が多いために、女性より男性のほうが適していると人々が無意識に考えてしまうことだ。その結果、その職務に適した候補者を考える時、同等の資格を持つ女性候補者よりも男性候補者を思い浮かべる可能性が高くなる。すなわち非公式の候補者リストでは、男性が最初に思い浮かぶという理由だけで、同等の資格を持つ女性候補者よりも男性候補者の方が多くなる可能性がある。
このように非公式な候補者リストは、ネットワークを利用した非公式な採用という「系統的な」バイアスと、ある性に特徴的な役割が初めに頭に思い浮かんだ候補者を選ぶという「潜在的な」バイアスの両方の影響を受けるため、ジェンダー平等におけるとりわけやっかいな障壁となっている。
筆者らの研究で、このジェンダーバイアスを軽減するシンプルな方法が明らかになった。それは、候補者リストを「長くする」ことだ。