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優れたITシステムやソフトウェアを新たに導入することが、必ずしも業務の効率を上げるわけではない。その使い方を学ぶために膨大な時間を費やしているケースが散見され、むしろ効率化の妨げになっている可能性がある。筆者らが米国のある省を対象に実施した調査から、その実態が明らかになった。


 情報テクノロジー(IT)企業は自社の商品を売り込む際、その商品が組織の効率を大きく高めると強調することが多い。しかし、新しいテクノロジーの導入を検討する企業幹部は、そうした主張を鵜呑みにしないほうがよい。

 そのテクノロジーは、スタッフ部門の労力を節約する代わりに、ライン部門のマネジャーや社員の業務負担を増やすだけなのではないか。この点をよくよく考えるべきだ。

 筆者らの研究では、28類型の247点のビジネス用ソフトウェアについて調べてみた。すると、それらのソフトウェアは一つ残らず、自動化、アラートシステム、他のソフトウェアとの統合、文書のデジタル化、データベースマネジメント、データレポーティングなど、さまざまなメカニズムにより、スタッフの時間を節約すると謳っている。

 これらのソフトウェアを導入することで、その企業の効率性がある程度高まったことは間違いないだろう。しかし、筆者らの研究によれば、そうしたIT投資を行うと、それを用いるライン部門のマネジャーと社員に非常に大きな負担がのしかかることがわかった。

 たとえば、これまでは人事部門のスタッフが福利厚生制度について社員に説明し、書類を整えていた。それに対し、最近は社員自身が社内の人事ポータルにアクセスして申請しなくてはならない。それに伴い、新入社員の負担が増えている。

 社員は福利厚生制度について勉強し、どのような制度を利用するかを自分自身で選択し、常に最新の情報をチェックし続けなくてはならない。そのために、いくつものウィンドウやボタンやプルダウンメニューが複雑に入り組んだコンピュータ画面を操作し、しかるべき手順に沿って手続きをすべて完了する必要がある。システムに精通した人物でなければ、太刀打ちすることは難しい。

 この類いの手続きを経験したことがある人なら誰もが知っているように、こうしたプロセスには時間がかかる。時には、莫大な時間を要する場合もある。そこで、企業は考えなくてはならない。そのテクノロジーは、このようにライン部門の負担を増やしてまで導入する価値があるのか、と。

 筆者らはこの問いに答えるために、企業が新しいITプロダクトを導入する際に掛かる時間的コストを推計してみた。それによれば、新しいITプロダクトを導入すればある程度の恩恵が生じることは確かだが、思いがけず社員の負担が増える結果、全体としてはIT企業が主張するほどの恩恵がもたらされていないことがわかった。