新規事業が抱える3つの難問

 革新的なアイデアを精力的に追い求めるカリスマ経営者の物語は心躍るものだ。持てるエネルギーと経営資源の大半を注ぎ込み、アイデアを模索し、個人の創意工夫を後押しする。このようにイノベーションを目指す姿勢はまさしく感動的だ。

 しかし、その物語が首尾よく始まったにしても、それだけでは先に進めない。新規事業は会社に飛躍的な成長をもたらす可能性を秘めてはいるものの、スタートしてから相当の時間が経った後も、強い逆風にさらされるものなのだ。

 年商20億ドルの半導体メーカー、アナログ・デバイセズの共同設立者であるレイ・ステータは、数十年前からこの難しい課題に日々取り組んできた。彼いわく「イノベーションに立ちはだかる壁は、技術や創造力ではなく、組織の機動性であると悟ったのは、かなり前のことです。どんなに優れていようと、個人でできることには限界があります」。

 つまり、アイデアから実践へ、そして卓越した指導力から卓越した組織力へと、軸足を移す必要があるのだ。企画倒れに終わらせないためには、どうすればよいのだろうか。この点を正確に洗い出すため、我々はこの5年間に、さまざまな企業の活動を時系列で調べてきた。

 ニューヨーク・タイムズ・カンパニー、アナログ・デバイセズ、コーニング、ハスブロ、シスコシステムズ、ユニリーバ、イーストマン・コダック、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ヌーコア、ストラ・エンソ、トムソン・コーポレーションといった企業の戦略的新規事業について、その運営に関するベスト・プラクティスを調査したのである。

 ここで言う戦略的新規事業とは、各企業の既存事業から派生した新しい事業で、まだビジネスモデルも確立されていない、高成長が期待できる先端産業分野を狙ったものだ。これらはイノベーションのなかでも最もハイ・リスク、ハイ・リターンであり、独自のマネジメント手法が必要になる。

 我々が戦略的新規事業に焦点を当てたのは、グローバリゼーション、IT、バイオテクノロジー、人口変動などの劇的な変化の影響によって、経済が急速に変動している一方、飛躍的な成長機会が生まれつつあるからだ。

 同一企業のなかで、高成長の可能性を秘めた新規事業(新会社)と、それに最も深く関連する既存事業(親会社)が円満に共存することはめったにない。言わば水と油が一緒になると、新会社は3つの難題、すなわち「放棄」「借用」「学習」に対処しなければならなくなる。

 つまり、新会社と親会社には根本的な相違があるため、新会社は親会社の成功要因の一部を放棄しなければならない。また、独立系の新興企業と比べると、最大のメリットともいえるのだが、親会社の資産の一部を借用せざるをえない。さらに、新会社にはゼロからの学習も欠かせない。