博覧強記ぶりが全開

 本書は4部で構成されている。第1部は、志本経営の基本理念を概観される。巷間言われる資本主義の終焉から、志本主義の誕生のプロセスを説く。第2部は、ネスレやセールスフォース・ドットコム、アリババグループ、ファーストリテイリングなど、欧米・中国、日本など各国の先進事例を概説する。第3部は、志本経営の実践に向けたステップや課題を明らかにする。第4部は、日本企業が志本経営を実践するための方法を論じている。

 新しい概念を、読者が理解できるように、丁寧に、論理的に説いていく。良書の基本であろう。その上で、読者の腑に落ちるように、名和氏"ならでは"の研究と文献で、裏打ちする。
 
 例えば、資本主義の終焉論では、欧米の還元主義の破綻を説明するのに、米国の神経学者アントニオ・ダマシオ著『デカルトの誤り』に始まり、カオスや自己組織化、システム思考などへと繋がっていく。名和氏はかつて、サンタフェ研究所のブライアン・アーサー氏と共同研究をしている。

 また、『知識創造経営』(野中郁次郎、竹内弘高共著)や『最強組織の法則』(ピーター・センゲ著)などの本流の経営書、ピーター・ドラッカーの一連の著作、『ティール組織』(フレデリック・ラルー著)や『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)』(サティア・ナデラほか著)などの話題の書についても、著者流の解釈を示すことで、読者に新たな発見をもたらしている。

 日本における志本主義論では、『論語と算盤』(渋沢栄一著)から、さらに源流を辿って、『武士道』(新渡戸稲造著)を紹介する。そこから、鈴木大拙氏や藤田一照氏らの禅論、西田幾多郎氏の哲学、福岡伸一氏の生物論、松岡正剛氏の日本文化論へと広がっていく。博覧強記ぶり全開で、読者を知的興奮の世界へと誘っていく。そして、志本経営への理解が深まっていくのである。

 最終部の第4部「日本企業への提言」は2章構成で、最初に「失われた30年の蹉跌」として、日本企業の敗因が分析される。次に「志が拓く未来」で、日本企業の成長への道を描いている。具体的には、世界が日本企業に注目する3つの力「現場力×組織力×瞑想力」を指摘し、これらをいかに企業の価値創造に結実させていくかを解説する。詳細は是非、本書をお読みいただきたい。

 本書では、舶来思考に惑わされ、黒船襲来に右往左往して、衰退していった日本企業に対しての、著者の忸怩たる思いが強く感じられる。著者は以前から、日本企業の現場における「学習する能力」を高く評価している。足りないのは、経営における「学習する能力」である。

 パーパス経営=志本経営は、経営者と現場のベクトルを1つにして、日本企業が元来備えている力を存分に発揮する方法論である。本書を読むと、日本企業は再生"できる!"と思える。