Westend61/Getty Images

コロナ禍をきっかけに、多くの企業でデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組みが飛躍的に加速した。ただし、その成功率は悲惨なほど低い。優秀な専門人材を雇い、予算を拡充したところで、経営幹部によるテクノロジーやデジタルへの理解が進まなければ変革は実現しないのだ。CEOや最高技術責任者は言うまでもなく、財務や人事の責任者にもその理解が不可欠である。本稿では、最高幹部の実態を調査した結果を踏まえて、あなたの会社でDXを推進するために、経営陣に求められる知識やスキルを明らかにする。


 コロナ禍をきっかけに、あらゆる業種でテクノロジーの導入が目を見張るほど加速した。ある調査によると、最高経営責任者(CEO)の77%は、自社のデジタル・トランスフォーメーションの計画がスピードアップしたと述べている。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まってほどなく、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは「わずか2カ月の間に、デジタル・トランスフォーメーションが2年相当進展した」と述べていた。トゥイリオの調べによると、コロナ禍により企業のデジタル・コミュニケーション戦略は平均6年相当前進したという。

 これまでのところ、デジタル・トランスフォーメーションの成功率は悲惨なほど低い。そこで多くの企業は、デジタル・トランスフォーメーション推進のために人員と予算の拡充を急ぎ、優秀なエンジニア、データサイエンティスト、サイバーセキュリティの専門家の採用を進めている。

 しかし、デジタル・トランスフォーメーションを本当に成功させるためには、企業の最上層部、すなわち戦略を決めて資源を分配する人たちが旗振り役にならなくてはならない。ドミノ・ピザはその好例だ。宅配ピザは競争の激しい成熟産業だが、それにもかかわらず、2008年に3ドルだった同社の株価は、2020年に一時433ドルまで上昇した。

 この成果は、デジタルに精通した経営陣が互いの意思統一をしっかり図り、データドリブンの実験と意思決定を通じて戦略を打ち出したことの賜物だった。その戦略の下、ドミノ・ピザは、配送ルートの決定システムを見直し、注文システムをさまざまなプラットフォーム(テキストメッセージやスマートTVなど)に統合するなど、自社のビジネスのあらゆる要素を近代化した。

 筆者らの経験から言うと、長く定着してきた経営幹部の選考方法や規範は、すぐには変わらない。これまで経営幹部に求められる必須の資質は、財務リテラシーだった。しかし、テクノロジーとデジタルに関するリテラシーも同様の扱いをすべきだ。

 そのようなリテラシーは、かつては「持っているに越したことはないもの」だったが、いまは「欠くことのできないもの」になりつつある。「クラウド」の話題になった時に、相手が空の雲(クラウド)の話題を持ち出したと思い込んで、天気に関する雑談を始めてしまうような人間を幹部の座に据えておくわけにはいかないのだ。

 今日、企業の経営幹部チームは、真のデジタル・トランスフォーメーションを成し遂げるのに必要なスキルを持っているのだろうか。筆者らはこの問いに答えるために、幅広い業種のフォーチュン1000企業が経営幹部の求人100件以上で、どのような資質を要求しているかを調べた(求人は2016年1月~2020年6月に公表されたもの。詳細は「研究の方法論」を参照)。

 この調査によると、テクノロジーやデジタル関連の専門知識を要求するケースは、コロナ禍以前から増加傾向にあった。調査対象になった求人の59%で、テクノロジーとデジタルのいずれかしくは両方の専門知識が資格要件として掲げられていた(「テクノロジー」は、テクノロジー関連のテクニック、スキル、システム、プロセス、ソフトウェア、ハードウェアを含む幅広い概念。それに対して、「デジタル」はテクノロジーの一領域と位置づけられる。多くの場合、物的資産ではなく無形資産を指す)。

 調査対象の企業は、社内のさまざまな職でこれらのスキルの持ち主を探していた。その点においては、多くの企業がコロナ禍以前から、重要なリーダー職に適切な人材を起用していたと言えるだろう。しかし、テクノロジーやデジタル関連の専門知識を考慮せずに、人材探しが行われていた役職もあった。

 予想通り、最高情報責任者、最高マーケティング責任者、最高技術責任者の求人では、テクノロジー関連のスキルとデジタル関連のスキルの両方もしくは片方を資格要件に含めているケースが100%だった。

 ところが、最高人事責任者と最高会計責任者の資格要件では、これらのスキルに言及しているケースは3分の1に満たなかった。CEOや取締役、最高財務責任者の求人でこれらのスキルを要求していたケースは、40~60%だった。