HBR Staff/NASA

コロナ禍を乗り越えるために、各社のデジタル関連の取り組みは急速に加速した。それがデジタル・トランスフォーメーション(DX)の進展だと捉えられる向きもあるが、そのほとんどが現在の競争からの脱落を防ぐ取り組みにすぎない。DXとは既存ビジネスのデジタル化を進めることではなく、古いビジネスモデルを根本から変革し、長期にわたる競争力を手に入れるための活動だ。本稿では、フィリップス、コマツ、マイクロソフトという先進企業の事例などにもとづき、リーダーがDXを実現するためにやるべき3つのことを示す。


 これまでになく「デジタル化」に忙殺されている会社が多い。あなたの会社もそうした会社の一つかもしれない。

 テクノロジーのイノベーションに置いていかれないように、デジタル関連の取り組みを行う企業が増えて久しい。そうした動きは、新型コロナウイルス感染症の流行により、大幅に加速した。コロナ禍の中で、食料品の買い物に始まり、「出勤」に至るまで、私たちの日々の活動の多くがオンライン上に移行した。

 しかし、このようなデジタル関連の取り組みと、デジタル時代に成功するために必要な真のビジネス・トランスフォーメーションを混同してはならない。

 前者は主として、これまで通りの事業を続け、競争から脱落しないための活動だ。それに対し、後者は、長期にわたって物を言う競争力を手に入れるため活動である。新しい時代に成功するために必要なのは、このような競争力だ。

 今日の企業は、デジタル化に多大なエネルギーと資金を投資している。しかし、他社との差別化を生む重要な選択に関して後れを取っているのではないかと、不安を抱く企業幹部が多い。

 企業幹部たちがそのような不安を感じるのは無理もない。コロナ後の世界で勝者になりたい企業は、「どのように」働くかだけでなく、デジタル時代に価値を生み出すために「何を」行うのかを考え直さなくてはならないからだ。

 いかに多くのデジタル関連の取り組みを実行したとしても、ライバルと同じことをしていては、勝利を手にできない。スピードこそ違っても、どの会社もおおよそ似たようなことを行っている。

 企業にいま求められるのは、状況をあらためて見詰め直し、自社がどのように価値を生み出すのかを根本から再検討することだ。具体的には、新しい世界で自社がどのような役割を果たすのか、どうやって自社単独ではなくエコシステムを通じて価値を生み出すのか、新しい価値創造のモデルに移行するためにどのように自社の組織を抜本的に変革するのかを、考えなくてはならない。

 要するに企業は、世界のあり方が根本から様変わりし、その世界で自社の新たなパーパスを見出さなくてはならないことを前提に、自社の未来を形づくる必要がある。「私たちの存在意義はどこにあるのか」「私たちは顧客のためにどのような独特の価値を生み出せるのか」といった問いに答えられないようでは、せいぜい市場にとどまることしかできない。