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ボーイングの取締役会は、737MAXの2度にわたる墜落事故を防げなかった責任を問われ、株主から訴訟を起こされた。訴訟の直接的な原因は航空機の墜落だが、ボーイングの取締役会が訴訟を回避できなかった要因をひも解いていくと、それぞれの問題はけっして珍しいものではないことがわかる。本稿では、他社の取締役会がボーイングの失敗から学ぶべき5つの教訓を紹介する。


 2021年2月、ボーイングの株主が同社の取締役会を相手に訴訟を起こした。取締役会が監督義務を怠り、2018年と19年に計346人の犠牲者を出した737MAXの墜落事故の前後に会社の安全対策の責任を問わなかった、と主張している。

「安全性はもはや取締役会の議論の対象ではなく、ボーイング社内には、737MAXに関する安全性の懸念が取締役会やその委員会に上がってくる仕組みはなかった」。120ページに及ぶ訴状は、そう指摘している。

 ボーイングの戦略は、航空機の総合的なコストを低く抑えるために、操縦訓練のコストを最小限にするものだった。これはパイロットが100%の有効性を発揮して、機体を自動制御するMCASシステムの誤作動を4秒以内に修正できるという、非現実的な予測が前提となっていた。

 その結果、数百人の命が犠牲になり、数十億ドルの損失を出して、悪化したイメージをいまだに回復できないなど、さまざまなコストが生じた。今回訴訟を起こした株主は、取締役会はこの事態を防ぐことができたと主張している。この株主代表訴訟から、ほかの取締役会が学べることは多い。

 取締役会は受託者責任を負う。つまり、他者の利益を守る義務がある。一般に注意義務や忠実義務と定義され、誠実義務を付け加える法学者もいる。

 コリン B. カーターとハーバード・ビジネス・スクールのジェイ W. ロッシュ教授は著書Back to the Drawing Board(未訳)で、取締役会の責任として、会社の戦略、予算、計画の承認および進捗の監督、会社の資本構成、大規模な支出、M&A活動の承認、CEOの任命およびシニアエグゼクティブの報酬の承認、会社のリスクの特定と管理の徹底、法的要件および地域社会の要件に関するコンプライアンスの徹底、会社の倫理基準の確立、などを挙げている。

 これらの責任を遂行することは、考えられている以上に難しい。ボーイングの失敗は5つの重要な教訓をもたらした。

(1)取締役の選任は能力と客観性を重視する

 ボーイングの失敗は、一夜にして起きたわけではない。むしろ、ボーイングを信頼されるエンジニアリング企業にしたプロセスが、時間をかけて侵食されたのだ。

 737MAXの2件の墜落事故が起きた時には、取締役会には安全とエンジニアリングの専門家が少なく、元政府高官が増えていた。今回の訴訟で名指しされた取締役のうち4人が、元国連大使や元ホワイトハウス参謀など、業界とは関係のない分野の元政府高官だ。さらに、13人の取締役のうち3人がキャタピラーの、2人がマリオットの取締役も務めていた。

 こうした相互関係は、客観的な意見を得にくくなり、縄張り主義を助長する。「どのような相互関係も、客観性を妨げるため問題がある」と、デラウェア大学ジョン L. ワインバーグ企業統治センターのディレクターを務めるチャールズ・エルソンは『フォーチュン』誌で語っている。

 取締役会メンバーの主な役割は、「監督」「決定」「助言」の3つだ。新しいメンバーを迎える前に、業界における会社のミッションを達成するカギとなるスキルセットを特定する。取締役会に専門性が不足していれば、それに見合う専門家を加える。