●データリテラシーを、技術部門のみではなく組織全体の最優先事項とする
データリテラシーは技術的スキルではない。職業人としてのスキルである。マーケター、営業担当者、オペレーション人員、プロダクトマネジャーなどを含むすべての従業員に対し、データリテラシーの習得を後押しすべきだ。
その方法として、意欲向上のためのセミナーを四半期ごとに開催し、データドリブンな意思決定、AIで可能なことを実行する技術、データが自社の事業とどう結び付いているのか、倫理とAI、データを使ってコミュニケーションを行う方法といったテーマを扱うとよい。こうした全社的な注力は、データファーストの文化に移行するための基盤となる。
●データについて語るための社内共通の言葉を確立する。データが自社の事業・業界とどう関わるのか、データが社内で具体的にどの職務を変化させているのかについても、共通の言葉で示す
データの世界は広大で、流行語や誤解に満ちている。データリテラシーのどの部分が自社にとって最も重要なのかについて、組織としての見解を確立しよう。金融サービス企業であれば、それは確率とリスクの測定かもしれない。テクノロジー企業の場合は、実験とビジュアル化かもしれない。
社内の人材開発セミナーでは、この共通言語を使って学習コンテンツを作成し、いくつもの部門でデータリテラシーが事業とどう結び付いているかを実証しよう。そうすれば従業員は、データリテラシーが自分たちの業務工程にどう関わるのかを全体的に理解できる。
●ビジネスコンセプトとデータコンセプトを結び付ける機会を従業員に与える
コリレーション・ワンの全顧客に1つ推奨しているのは、従業員に対し、自身のデータリテラシーを用いて新たなビジネスアイデアを考案するよう後押しすることだ。
たとえば音楽業界に属する会社であれば、人材開発プログラムの一環として、新たに得たデータリテラシーの知識を活用した企画を従業員に考案させてみよう。その知識と業界のノウハウを組み合わせれば、彼らはコスト削減や収益の創出に関して、驚くような新規アイデアを生み出すはずだ。
同じく重要な点として、これは新たなデータファーストの文化がボトムアップで促進されるよう後押しすることにもなる。
●データドリブンな意思決定に報いるインセンティブの仕組みを設ける
アイデアの承認や、予算設定に用いている現在のプロセスを考えてみよう。そこに、データドリブンな思考に恩恵を与える仕組みを追加すればよい。たとえば、企画書に見やすいビジュアル要素を含めることや、KPI(重要業績評価指標)をリアルタイムで定量的に追跡するダッシュボードの構築を、マネジャーに義務づけるなどだ。
データドリブンな思考を用いた企画に対し、承認のスピードを早めたり、より多くの予算を割り当てたりすることで、マネジャーの意思決定を直感からデータに基づくよう変える。これができれば、インセンティブの調整を通じて、マネジャーに期待する振る舞いは短期間で実現するはずだ。
●導入する人材開発プログラムは、自社のビジネス課題に即した文脈でデータリテラシーを教える内容、そして実際に従業員の関心を引く内容にする
持続的な変革を求めている組織では、コーセラなどの教育・研修プラットフォームの受講は往々にしてまったく効果がない。なぜなら、学びの効果が格段に高まるのは、その学習が社会的で(他者と一緒に学ぶ)、個人化され(専門家からのフィードバックとともに学ぶ)、文脈が合っている(解決に取り組んでいるビジネス課題と直結する)場合だからである。
社会的、個人化、文脈という条件がそろった学習プログラムの開発には、より多くのリソースが必要となる。しかし、学習コンテンツに対する従業員の意欲と定着率、そして従業員へのエンパワーメントという面でのメリットを考えれば、無駄にはならない。
おそらく最も大事な点として、コリレーション・ワン以前と以降での経験を通じて筆者が理解したのは、データは垂直的なものではないことだ。データサイエンティストやデータエンジニアといった、1つの職種に収まるものでもない。
データは水平的であり、あらゆる分野において、ますます多くの職種を横断するスキル群である。マーケターはデータのスキルがあれば、より優れたマーケターになる。プロダクトマネジャーはデータのスキルを持てば、より有能なプロダクトマネジャーになる。オペレーション、エンジニアリング、営業、人事でさえ、同様のことがいえる。
誰もがコーディングのやり方を知る必要はない。しかし、まもなく誰にでもデータリテラシーは必要となるだろう。
究極的にデータリテラシーは、機械学習やデータサイエンスという分野には収まらない広範なものである。AIだけの問題でもない。データリテラシーとは簡潔にいえば、データに満ちあふれた世界に、人間がよりうまく対応していくことだ。だからこそ、現在の私たちにとってますます必要なのだ。
"How Data Literate Is Your Company?" HBR.org, August 27, 2021.