パンデミックを機に変わった「富士通」は
日本人の強さを表している

 グラットン氏はこう続けた。「いままで日本人の働き方に驚きを感じていましたが、パンデミックが始まり、それが2週間で変わりました。私が『ハーバード・ビジネス・レビュー』の論文『ハイブリッドワークで理想の職場を実現する』の冒頭に富士通のことを書いたのは、私が知っている企業の中で富士通が最も大きく変わった、と感じたからです」

 富士通はパンデミックを機に新しい取り組みを始めている。社員との信頼関係の下、場所や時間に囚われない働き方「Work Life Shift」を推進しており、グラットン氏は興味を示している。ICTツールを活用し、人事制度、カルチャーをシフト、通勤という概念をなくすなど、ライフスタイルを尊重して働ける体制をつくっているのだ。

 彼女は、富士通役員の言葉を引用し、「『働き方を再発明したい』、『パンデミックを働き方を変える機会としたい』という言葉は、パンデミックが終わっても『後戻りをしない』という宣言でもあります」と、その姿勢を称賛した。

「日本はいつも私を魅了してきました。素晴らしい人たちがいる国です」。この富士通の例は、大きく変わることができる日本人の強さを表していると述べた。

 このように変化を遂げた企業もあれば、これまでと同様の働き方をしている企業もある。「多くの投資銀行、たとえばゴールドマン・サックスは全社員に全日出社を求めています。ゴールドマン・サックスは人のつながりが強く、コラボレーションをしながら仕事をして、顧客に直接会う機会も多い。だから全員出社でもいいんです」

 グラットン氏は、才能ある人たちにはいまや選択肢があると言う。「たとえばカナダの投資会社CPPは、一年に3カ月はどこで働いてもいいと言っています。働く人が選択肢を持っているというのはすごく大切です」。在宅勤務ができないことが一因となって、優秀な人材を逃してしまうかもしれない。しかしゴールドマンの評判や高い給料に魅力を感じ、全日出社でもかまわないという人材も十分にいるだろう。

働く人がどこで、誰と働くかの
「選択肢を持っている」ことが重要である

「これから起こるのは、いろんな働き方が出てくるということです」。グラットン氏は語る。1900年代初頭、ヘンリー・フォードがつくった自動車は、モデルは1つ、カラーは黒色だけだった。名車「モデルT」だ。100年以上経った現在では、自動車産業が発展して数多のタイプや豊富なカラーから、好みや人生のフェーズに合わせて自動車を選ぶことができる。彼女は働き方についても同じことが起きると断言する。

「人がどのように働くのか、組織が働き方をどう設計するかが多様化していくでしょう。そして、組織で働く人が選択肢を持つようになって、自分は何がほしいのか、何を得られるのかをバランスさせていくようになります。

 たとえばゴールドマンに行けばたくさん稼げて評判も得られる。ゴールドマンで働かなければゴールドマンほどの給料も評判も得られない。それもあなた自身の選択になります。働く人が選択肢を持っているというのはとても大切なことなのです」