「普通の人」でも仕事環境で
クリエイティビティが上がる

 稲水氏の言う「クリエイティビティ」とは、イノベーションの最初のステップであり「アイデアの種」を指す。

「クリエイティビティは、もともと心理学の分野でかなり多くの研究がされていて、それを発揮しやすいパーソナリティについて、いろいろとわかってきています。実際に私も調べたことがあるのですが、たとえば、自分勝手であるとか、個人主義的な素質といったものがクリエイティビティに大きく結び付いているのは確かなことのようです。ですが、そうなるとマネジメントのしようがないという結果にもなってしまいます」

 しかし、経営学では性格でクリエイティビティが決まってしまうとは決定付けてはいないという。「1990年代以降にハーバード大学のテレサ・アマビール教授を中心に、クリエイティビティを高める要素は、その人の『内的モチベーション』も重要だとわかってきました」

 内的モチベーションとは、目の前の仕事が楽しくてしょうがない、没頭している状態のこと。働く環境を整備して、これを高めるようなマネジメントをしていけば、普通の人でもクリエイティビティを高めることができるのだ。

 この内的モチベーションを高めるには、「自由や自律性」という仕事に裁量を持たせることが重要だという。それ以外にも、組織や上司からの奨励、同僚からの支援、時間などの十分な資源、挑戦的な仕事内容などもよい。反対に強すぎるプレッシャーや社内政治、官僚的組織といった要素は、マイナスに働く。

3000人のアンケートで判明、
「フリーアドレス」は「固定席」より効果なし

 稲水氏は、特に自由や自律性に注目し、コロナ禍以前に行った3000人を調査・分析した結果を紹介した。注目すべきは、オフィスでの座席は「席の自由度」だけでなく「選択の自由度」が重要だということ。単純な「自由席=フリーアドレス」は、クリエイティビティが「固定席」のケースよりも低いという結果になったのだ。

「仕事に合わせて場所や時間を選ぶことができるABW(activity based working)というスタイルが、クリエイティビティが上がるという結果になっています。この席の選択肢というのは、たとえば『一人で集中できるスペース』『電話やネット会議のできるフォーンブース』『カフェテリア、ソファ等、活動に合った交流スペース』等、目的に合った場所をみずから選ぶことができるというほうが選択の自由度が上がるためだと考えられます。

 クリエイティビティを高めるには、単にフリーアドレスにすればいい、という考え方ではなく、活動に合わせた選択肢を用意する。選択肢があるというのは、前述した内的モチベーションを高める要素である「自由・自律性」が高いということだからだ。

画像を拡大
単純なフリーアドレスは「固定席」よりもクリエイティビティが低い

コロナ禍におけるテレワークの普及は
メリットが多い

 次に、コロナ禍での働き方について、これもデータとともに稲水氏は分析する。そもそも在宅勤務、テレワーク、サードプレイスも含めて、どこでも仕事をするというスタイルは、2010年代前半から学術的な分野でも肯定的なものが多かった。

「在宅勤務のような働き方は、認知された自由・自律性が増し、パフォーマンスが高くなるというのは多くの研究でわかっていました。また、上司や同僚とのコミュニケーションが減ることで関係が損なわれるという結果も思ったほど見られないのです」

 最近の言葉で「i-deals」というものがある。i-deals(idiosyncratic deals)とは、従業員が上司や会社と交渉して特別扱いを認めてもらうこと、つまり在宅勤務がこのi-dealsに当たるのではないか、と稲水氏は言う。

 コロナ禍中の2020年5月に2000人ほどを対象にした調査では、オフィス内でしか仕事ができないという思いが強かった人ほど、初めて在宅勤務に切り替わると、i-deals(特別扱いを認めてもらったという)率が大きくなったという。i-dealsは自由・自律性につながり、パフォーマンスが上がる。「もちろん、ほとんどの仕事を在宅でするようにと強制されるとネガティブになりますが、コロナが終わってもテレワークやオフィスを自由に選べるスタイルが、パフォーマンスを上げることになっていくのではと思います」