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パーパスを表明する企業は増えているが、どれほど巧みなパーパスを策定したところで、それを実現できなければ意味がない。前ベスト・バイCEOのヒューバート・ジョリーは、従業員の「ヒューマン・マジック」を解き放つような環境を整備することが、企業にパーパスを根付かせ、実現するうえで不可欠だと語る。本稿では、そのための6つの要素を紹介する。


 企業の目的は利益の最大化のみであってはならない。この点について、もはや議論の余地はほとんどない。とはいえ、多くの企業がパーパスを表明してはいるものの、その意志を現実に変えるために有効な環境を築く方法については、いまだ十分に理解されていない。

 種と水がどれほど良質であっても、土壌が悪ければ何も育たない。同様に企業のパーパスも、どれほど巧みに定義されていても、社内の環境が肥沃でなければ実現は不可能だ。

 肥沃な環境とは、従業員が崇高な目的(ノーブル・パーパス)を活きいきと追求し、誰もが最高の自分、最大限の自分、最も素敵な自分になれる職場である。そのような環境では、「ヒューマン・マジック」と筆者が呼ぶものを解き放つことができ、並外れて素晴らしい成果が生まれる。我々もベスト・バイを再生させる過程で、それを経験してきた。

 その一例として、筆者は2019年に、ヒューマン・マジックに関する直接的な証言を得た。

 出席したイベントで一人の上級幹部が、最近ベスト・バイの店舗を訪れた際、どれほど驚いたかを話してくれた。販売員たちは心からの熱意と関心を持ってサポートしてくれていることがわかったという。一方、その数年前に、彼はベスト・バイでの買い物で失望させられた。店内の誰一人として彼を気にかけず、優れたサービスと体験の提供もできないように思えたからだ。

 ベスト・バイは販売員を総入れ替えしたのか。あるいは、もっとよいインセンティブ制度を設けたのか。両方とも違う。従業員が個人や集団として潜在能力を発揮することに夢中になる――そんな環境をつくったのだ。「技術を通じて人々の暮らしを豊かにする」というベスト・バイのパーパスは、このような環境があってこそ具現化し、開花している。

 従業員の意欲を引き出すために企業が取ってきた伝統的なアプローチは、アメとムチの組み合わせだ。すなわち、組織のトップにいる小数の賢い者たちが立てた計画に向けて、そこに関わる全員を動かすために金銭的インセンティブの仕組みを活用する。

 エグゼクティブコーチングの先駆者で著述家のジョン・ウィットモア卿がかつて指摘したように、このやり方の問題は、従業員をロバのように扱えば、彼らはロバのようにしか働かないということだ。認知的スキルやクリエイティブスキルを伴う仕事では、金銭的報酬は意欲とパフォーマンスの向上につながらないことが複数の研究で立証されている。

 それでは、何が有効なのか。筆者の経験では、会社のパーパスを根付かせ、それを開花させるために不可欠な能力を引き出すには、複数の相互補強的な要素が必要となる。以下に挙げる6つの要素を用いて、従業員のヒューマン・マジックを解き放つ独自の方法を編み出してほしい。