HBR Staff; Source image: Caique Silva/Unsplash

人生が根本から変わるような出来事によって、それまで築いてきたアイデンティティが失われたり、思わぬ変化を強いられたりすることがある。それがポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、過去のアイデンディティを脱ぎ捨て、自分の新たな役割を受け入れるのは容易ではない。過去に囚われれば、現状に対する怒りや不満、絶望感を招きかねず、キャリアにもメンタルヘルスにもダメージが生じる。本稿では、アイデンティティの移行を経験した数百人の調査から、過去に囚われることなく、人生を前進させるために必要な5つの戦略を紹介する。


 人間は、変化に対して複雑な感情を抱いている。成長するために変化は不可避で不可欠だが、それはひどく不快なものになりうる。それが自発的ではない変化、あるいは自分ではコントロールできない変化の場合は、なおさらだ。

 社会変動に関する研究は多いが、筆者らは過去10年にわたり、人生の劇的な変化と呼べるような出来事に、人々がどのように対処するかを研究してきた。

 具体的には、望ましいアイデンティティを失った人(たとえば、ホワイトカラーの専門職から社会的地位の低い仕事に移ることを余儀なくされた人)から、望ましくない、あるいはスティグマ化されたアイデンティティを隠そうとしている人(たとえば、地域コミュニティに溶け込もうと努力する元受刑囚)まで、数百人を対象にインタビュー調査を実施した。

 興味深いことに、ポジティブな変化であれ、ネガティブな変化であれ、回答者の多くが過去のアイデンティティを脱ぎ捨て、新たな自分を受け入れることに苦労していた。このように過去に囚われる感情、すなわち筆者らが「アイデンティティの麻痺」と呼ぶ現象は、現状に対する怒りや不満、絶望感の原因になることが多い。

 とはいえ、アイデンティティの麻痺を回避できる人もいることが明らかになっている。彼らは、人生の重大な変化を軽々と乗り越え、自分の新たな役割をポジティブに受け入れることができる。

 筆者らのインタビュー調査を通じて、人生の変化に満足しているか否かにかかわらず、誰もが新しいアイデンティティと折り合いをつけ、アイデンティティの麻痺ではなく、アイデンティティの成長を手にするための5つの戦略を見出した。