
ダイバーシティとインクルージョンを推進し、女性や有色人種のような過小評価グループに平等な昇進機会を与えることは、個人にとっても組織にとっても重要だ。しかし実際には、彼らに不当な「通行料」の支払いを課し、キャリアアップが妨げられている。本稿では、3つの通行料の存在を明らかにしたうえで、個人と組織がどのように対処すべきかを論じる。
ディビジョンマネジャーとして高く評価されてきたローラ(仮名)は、新たな機会に備えていた。しかし、チャンスが巡ってくる気配はない。そこで彼女は、法律関連の職歴を持つ男性がリーダー的役割を務めていたポジションに、みずから昇進希望を出すことにした。
彼女は弁護士ではないが、社内で培った豊富な経験が確固たる基盤となり、このポジションで成果を上げられると確信していた。しかし残念ながら、会社から必要な経験と資格が足りていないと告げられてしまった。ローラはその評価に納得できなかった。
新たに調達マネジャーの職務に就いた黒人女性のアイシャ(仮名)は、会社が幅広い種類の備品に関して、組織的に割高な金額を支払っていることに気付いた。そこで、調達グループの月例会議でその事実を指摘したが、彼女の懸念は無視された。その後、アイシャは調達責任者に直談判したが、彼もアイシャのデータに疑問を呈し、納入業者の変更という提案をあっさり却下した。
あるテクノロジー企業で数少ないラテンアメリカ系のシニアマネジャーとして働くミランダ(仮名)は、プレッシャーの強い状況で複数のプロジェクトを同時に動かし、ステークホルダーとの複雑な関係を調整することに慣れていた。しかし、パンデミックを機に始まったプライベートの詮索には慣れていなかった。
毎日何度も行われるズーム会議で、同僚たちから、画面の背後で勉強したり、遊んだりしているミランダの子どもたちについてさまざまなコメント──友好的なものもあれば、敵意を感じるものもある──が届く。顧客からは引き続き好意的なフィードバックが寄せられていたが、ミランダはリモート環境での自身の仕事ぶりが社内でどう受け止められているか心配になった。
このような女性たちのエピソードは、けっして珍しい話ではない。
新型コロナウイルスのパンデミックやブラック・ライブズ・マター運動の余波で世界は一変した。組織がその環境下で前進を続けようとする中、あらゆる人種や民族の女性をはじめ、組織内の過小評価グループに影響を与える多くの問題が、あらためて強烈な形で表面化している。
女性たち──そして何らかの点で多数派と異なる組織内の「アウトサイダー」たち──は、チャンスを逃したり、重要な意思決定から排除されたり、会議で無視されたり、介護の負担が重すぎたりと、キャリアを阻む障害に何度も直面しているのだ。
組織の側も困っている。競争条件を不平等なまま維持することで「すべて」の従業員からスキルと才能を奪うことになり、その結果、コストのかかるリテンションの課題や雇用の問題、不健全な文化が生まれるかもしれない。
このような問題に対処するためのアドバイスは数多く存在するが、筆者らは企業に深く入り込むことで、個人の行動を組織の変化につなげる可能性がある、独自のフレームワークを構築した。
このフレームワークのベースにあるのは、過小評価グループのメンバーは「アウトサイダー・トール」(部外者の通行料)を支払わなければならないという概念だ。これに対し、「インサイダー」(内部者)は公道を自由に通行できる。
高速道路の料金所と同じく、組織における通行料は一部の人々のキャリアアップにブレーキを掛けるだけでなく、キャリアアップを目指す人々の資源まで奪ってしまう。最悪の場合、アウトサイダーは「通行料」を支払う財力が尽きて、高速道路(すなわち職場)から完全に立ち去るしかなくなる。
「アウトサイダー」の地位は、人口統計学の特性上、組織内で少数派となる集団に与えられることが多いが、個人や組織、社会、世界の変化次第で、「誰もが」インサイダーになる可能性もアウトサイダーになる可能性もある。
転職、休職からの復帰、スポンサーの退職、上層部の交代、全社的な組織再編成などの出来事はいずれも、インサイダーをアウトサイダーに、または逆にアウトサイダーをインサイダーに変える引き金となりうる。
ある道路を走っていた人を別の道に移動させたり、また元の道に引き戻したりするわけだ。組織における通行料は、女性や有色人種をはじめ、組織内や上層部で過小評価されているグループに不均衡な形で影響を及ぼす傾向がある。
本稿では、アウトサイダーが組織で要求される3つの具体的な通行料──機会の通行料、影響力の通行料、詮索の通行料──を説明したうえで、これらの通行料について、個人が交渉するチャンス、また組織の学習と変化を促す際の焦点という視点からとらえ直してみたい。