パーパス経営を実践する「戦略」「資産」「組織」
藤井 でき上がったパーパスを額縁に入れて飾っておくだけでは意味がなく、各ステークホルダーから共感を得て、経営変革と企業価値向上を実践していかなくてはなりません。
そのためには、パーパスを体現する事業ポートフォリオにシフトし、事業を通じてパーパスを実践していくパーパスドリブンPX(ポートフォリオ変革)が重要です。あるいは、サステナビリティアジェンダに関して続々と生まれる新たなルールや慣行、価値観を能動的にセンシングし、自社の戦略ストーリーにタイムリーに反映していくサステナビリティセンシングなどが欠かせません。
名和 いわゆる価値創造ストーリーというか、方程式をその会社らしくつくらないと単なるきれい事で終わってしまうおそれがあります。価値創造ストーリーには3つの要素があると私は考えています。1つ目は「戦略」。私が提唱するのは、サステナビリティ(Sustainability)に、デジタル(Digital)とグローバルズ(Globals)という2つの視座を加えた、「新SDGs」という考え方です。
現行のSDGsの17の目標を達成するだけでは競争優位は築けません。17の目標を「規定演技」とすると、自社「ならでは」の18番目の「自由演技」に取り組むべきです。
デジタルはツールの一つにすぎないので、デジタルを使って経営そのものを変革することが重要です。つまり、DXの主眼は「D」ではなく、「X」(トランスフォーメーション)であることを見失ってはいけません。
そして、世界のボーダーレス化は幻想にすぎず、実際にはボーダーフル化が進んでいます。そこでは“グローバルズ”(複数の世界)という複眼的な視点が必要であり、ジオエコノミクス(地経学)への配慮なしに世界で戦うことはできないのです。
2つ目の要素は「資産」です。ここでのキーワードは「たくみ」(匠)から「しくみ」(仕組み)への変換です。日本企業は何事も仕組み化が苦手で、属人的な匠の力で乗り切ろうとするところがあります。しかし、個人が学びえたものを周囲と共有し、組織の資産となるよう広がりを持たせることで、パーパスを社会にスケールさせることができます。
そして3つ目が「組織」です。トップのコミットメントはもちろん、現場のエンゲージメントを高める取り組みが欠かせません。社員を奮い立たせるうえで、現場のリーダーは異質な社員が参加する「マイパーパス」ワークショップや、社員一人ひとりとのワン・オン・ワン型の対話の機会を持ち、志に火をつけることに最大限の努力を払う必要があります。