
優れた顧客体験が収益の増加をもたらすことは証明されているが、従業員体験と顧客体験の関連性は明らかにされてこなかった。筆者らが定量データに基づく調査を実施した結果、従業員の定着率が高かったり、不安定なパートタイムではなくフルタイムの従業員が中心だったりするなど、企業が優れた従業員体験を提供することで顧客体験が向上し、収益増に直結することが判明した。
優れた顧客体験が収益の増加をもたらすと、多くの人が信じている。また、研究でもそれが裏付けられている。しかし、そのような成功は誰の功績になるのか。
マーケティング部門は、通常の水準を超えた売上増が達成されたら、自分たちの広告キャンペーンやブランド認知の取り組みの賜物だと指摘するだろう。製品部門は、特定の機能が顧客満足度や売上げの増加に与えた影響を数字で示すことができる。営業部門は当然ながら、自分たちが収益増の主力だと考えている。だが、HR部門はどうだろうか。
従業員、特に顧客と直接関わる従業員は、顧客体験における中心的な役割を果たすと見られる。消費者として生活する中で、この関連性は直観的に理解できるだろう。従業員とのたった1つのやり取りが、店舗、診療所、電話、あるいはチャットやソーシャルメディアなどバーチャルな交流の体験を良くも悪くも左右する。
しかし、優れた顧客体験を生み出したり、より一般的に収益を上げたりするうえで、従業員がどのような役割を果たすのかについて、経営幹部が明確に把握できていない傾向がある。なぜなら、定量化が非常に難しいからだ。
最近の研究では、従業員体験について優れた指標を持つ企業は、顧客体験に関しても優れた指標を持つ傾向があることが示された。また、従業員満足度の向上が顧客満足度の向上を促すことが示唆されている。
しかし、これらの研究は因果関係を立証するうえで限界がある。それらの結果は組織レベルのデータに基づいているため、従業員に関する指標が本当にビジネスの成果に直結しているとは断言できない。たとえば、否定的な報道が続かなかったことや、従業員と顧客の両方に影響を与える優れた新製品が発売されたことに影響を受けた可能性もある。
筆者らはさらに一歩進んで、従業員と顧客体験、あるいは従業員と収益や利益などビジネスの成果との因果関係を特定し、定量化できないか調査したいと考えた。これを証明することは、従業員に対する投資がいかに重要であるかを示す、説得力のある新たな証拠につながるだけではない。経営幹部らに対して、自分たちの組織でROI(投資利益率)を定量化するが生む影響力を示すことにもつながる。
そのためには、自社のビジネスが顧客と直接関わる従業員の存在に深く依存している組織に関して、その内部データを入手する必要があった。そこで、調査目的で匿名化データを共有することに同意してくれた大手グローバル小売ブランドを対象に選んだ。
従業員が顧客の意思決定に与える影響を明らかにするため、特にサービスを重視した店舗部門に焦点を当てた。この部門には、顧客と直接対話し、オーダーメイドの商品を提供して、知識とサポートの提供が期待される従業員が配属されている。筆者らは最終的に、全米の実店舗1000以上の従業員および財務に関する3年分の詳細なデータを得た。
筆者らが抱いていた疑問は、これらの店舗で顧客と接する従業員の構成が、他の条件がすべて同じ場合、売上げや利益に影響を与えるのか、というものだ。
その結果は驚くべきものだった。従業員と収益の間に明確な関連性を見出すことができただけでなく、その影響は非常に大きいことがわかった。調査した従業員体験の各指標において、平均的な店舗の下位4分の1と上位4分の1を比較した場合、収益は50%以上、利益もほぼ同じだけ増加する可能性がある。
以下、研究の詳細を示す。