Illustration by Nata Schepy

多くの業界で人手不足が蔓延する中、人材を採用して研修を終えても、早期に離職してしまうケースが少なくない。離職者の穴を埋めるコストは、企業側が認識しているより高く、業績に悪影響が及ぶことさえある。特に将来、自社の中核的な生産活動を担っていくはずの若手従業員を採用し、維持するにはどうすればよいのか。人材開発のスペシャリストへのインタビューから、人材採用の社会的側面からの重要性、とりわけ相互に敬意と信頼を醸成する仕組みが不可欠であることが明らかになった。本稿では、企業が若手従業員の採用と定着に成功するための10の教訓を紹介する。


 採用が極めて困難な時代が訪れたことは、周知の事実だ。多くの業界で人手不足が蔓延する中、若者は高額な初任給を期待している。企業にとっては、新規雇用者が採用と研修を終えると同時に、よりよい給与を求めて転職してしまうリスクが急速に高まっている

 離職者の穴を埋めるコストは以前から高くついたが、それは多くの企業が認識しているよりも高いことが多く、自社の業績に悪影響を及ぼす可能性もある。

 企業はどうすれば、もっと上手に若手を採用し、定着させられるのか。その答えを見つけるために、筆者らは人材開発のスペシャリスト(企業が採用候補者を見つけ、若者が就職先を見つけるのを助ける専門家)にインタビューを行った。

 インタビューでは、すぐに離職せず、自社に定着してくれる人材を採用するために、企業は何をすべきかを尋ねた。彼らは採用プロセスについて、企業と労働者の両方の立場を知り、それぞれを評価しているため、若手の採用プロセスに効果があることと、ないことを知っているからである。

 筆者らの研究では、工場から医療ケア、そして事務サービスまで、さまざまな職種で中核的な生産業務を担う若者に焦点を当てた。そして、どの職種においても、エントリーレベルの従業員を採用し定着させるために、企業ができることは何かを探った。

 多くの企業は、賃金を引き上げることで、中核的な生産業務にあたる人材を惹きつけ、維持しようとする。福利厚生を完備した正社員の募集に切り替える企業もあれば、契約金のようにサインオン・ボーナス(入社支度金)を支給する企業もある。

 このような措置を取ることは重要だが、筆者らの研究で、若手従業員を維持するためにより重要なのは、採用の社会的側面、とりわけ相互に敬意と信頼を醸成する仕組みであることが明らかになった。差別に遭遇しやすい非白人労働者にとって、特に重大な問題だ。

 筆者らの目標は、企業が従来の採用や研修のやり方を再検証し、新規雇用者が生産性の高いチームメンバーに変わるまでの時間を短縮し、採用の失敗による離職がもたらす経済的・感情的コストを削減することにある。

 研究の結果から、企業が採用を成功させるための10の教訓が明らかになった。筆者らが話を聞いた人材開発のスペシャリストは、企業が犯す典型的な過ち、場合によっては何度も繰り返される過ちを観察する中で、そこから洞察を得ていた。本稿では、そのような過ちを正す方法を紹介する。