ミスを真ん中に据えた「PDMCA」

宮下 たしかに、それぞれの業界には特有のカルチャーや考え方があります。その上に、企業独自の文化があるといえるかもしれません。では、Jリーグという生業の根底にあるものとは何でしょうか。

村井 就任後1カ月ほど、その本質を考えて悶絶しました。そして、「サッカーはミスのスポーツである」という結論に至りました。たとえば、オウンゴールは他のスポーツにはほとんどありません。手を使わないので、どうしてもミスが起きる。試合中のミスを数えればきりがない。そういうスポーツなのです。サッカーの本質的な部分にミスというものがある。そういう生業に携わっているにもかかわらず、Jリーグという団体はふだんミスを恐れて仕事をしているのではないか。そう考えて、「PDMCA」という言葉をつくりました。PDCAの真ん中に「ミス」(Miss)を置いたのです。

宮下 イノベーションを実現するためには、トライアル&エラーが不可欠とよくいわれます。先行きが不透明な時代の経営を、Jリーグが先取りしていたともいえそうですね。

村井 ミスにもレベルがあって、もちろん許されないミスもあります。たとえば、鉄道会社なら、ミスを許容できる範囲は非常に狭いでしょう。一方、Jリーグではかなり広いはずです。挑戦してミスをした時は、起き上がって再挑戦すればいい。サッカー選手と同じです。

宮下 個人的なことですが、「学生時代とは何か」を振り返ると「失敗して起き上がることを学ぶ時間ではなかったか」と感じていますが、最近の若い世代を見て、「どこかにあるはずの正解を求めにいく」という傾向を感じることがあります。ミスを前提とするサッカーは、そうした思考パターンから脱することを助けてくれるかもしれません。

村井 AIが進化すれば、「正解」を求める傾向がさらに強化されるのではないでしょうか。過去の膨大な学習データを基に、AIは「失敗しない店の選び方」「失敗しない転職先」をレコメンドしてくれるでしょう。結果として、失敗することを恥ずかしいと感じる人が増えるかもしれません。そんな時代にこそ、生身の人間が全力でプレーし、転倒して起き上がり、泣いたり笑ったりするスポーツの価値は高まるのではないか。世の中には、ミスや失敗の中からしか生まれないものがあると思います。