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AIと機械学習が贅沢品だった時代は終わった。大手テック企業でなければ手の届かないものではなくなったのだ。いまや多くの企業がAIと機械学習を用いて競争優位を築ける環境にある。ただし、適切なツールを導入するだけでは十分ではない。企業は自社のデータを最適化し、戦略的に用いることを学ぶ必要がある。本稿では、企業リーダーが、データプロセスの構築を実現するための4つの取り組みを解説する。

自社のデータを戦略的に活用する

 今日、かつてないほどの膨大なデータが世界中の企業によって生み出されている。データは、経済・ビジネス活動の副産物として自然に増えるものであったが、最近では私生活や仕事におけるオンライン化が進んだことで、人々によって日々、大量に生み出されるようになった。実際、全世界のインターネット上のデータの90%は、2016年以降に生成されたものである。

 この10年以上にわたり、大量のデータを大規模に収集するうえで優位な立場にあったのは、FAANGと呼ばれる企業(フェイスブック、アップル、アマゾン・ドットコム、ネットフリックス、グーグル)のみだった。データは彼らの主力製品であり、価値提案の本質であるため、早期から人工知能(AI)チーム、サーバーやネットワークインフラなどに投資してきた。

 ほかの差し迫った支出と出費を必要とする非テック企業にとって、このような集中的なリソース配分はほとんど不可能であった。

 ごく最近になって、クラウドコンピューティングのプラットフォーム、一般向けツールの進化、機械学習モデルの民主化のおかげで、より多くの企業が高度なデータ能力を手に入れられるようになった。2021年末時点で、全企業の半分以上が少なくとも一つの事業部門においてAIを導入しており、自社のEBITDAの少なくとも5%はAIの導入に起因すると答えた企業は、全体の4分の1を上回った。大量生産された機械学習モデルは広く普及している。

 これは著しい変化である。AIツールによって、非テック企業は所有済みのデータを、売上げや物流、オペレーション全般の強化に用いることができるのだ。

 ただし、適切なツールを導入するだけでは十分ではない。長期的利益と競争優位を得るには、自社のデータを最適化し、戦略的に用いることを学ぶ必要がある。企業のリーダーは、データプロセスの構築を事業の中核要素として優先すべきだ。そのためには、以下の取り組みを行う必要がある。

1. データの使い方をみずから学ぶ

 自社データの使い方を理解する最初のステップは、どのデータをすでに所有しているのかを把握することだ。自社のビジネスプロセスの棚卸しを行い、どのプロセスが自然にデータを生み出しているかを特定しよう。

 自社は何のデータを保存しているのか。何のデータを保存していないのか。その理由は何か。保存できるのに捨てている情報は何か。これらを自問するとよい。

 データに関する棚卸しをした後は、他社が事業の強化に向けて類似データをどのように保存・使用しているのかに目を向け、学習しよう。

 他社は、品質保証の記録をどのように使っているだろうか。どのセールストークが最も有効かを見つける機械学習アルゴリズムを開発し、その発見にもとづいて営業担当者を訓練しているだろうか。サプライチェーンと物流のデータに関してはどうだろうか。他社はそれらのデータを使って、在庫をより効果的に輸送する最適化プログラムを開発しているだろうか。

 例として、将来の支出を節約するために、電力と社屋のメンテナンスに関する履歴データを利用し始めた企業がある。グーグルが自社のエネルギー消費データを子会社のディープマインドが有するAIに接続して何を実現したかを考えてみよう。何千ものセンサーから収集された、温度や電力、ポンプ速度などに関する履歴データを取り出して、ディープニューラルネットワーク群の訓練に使用し、それらをもとにディープマインドのAIが一連の推奨事項を生成した。その結果、グーグルのデータセンターを冷却するために使うエネルギーの量が40%削減されたのである。

 さらに、他社が公に収集しているデータについて注意深く考え、その情報をもとに、彼らが解決を目指している問題について洞察を得るとよい。

 たとえば、グーグルはキャプチャ(CAPTCHA:画像認証)でどのような画像を識別するよう求めているだろうか。その理由は何だろうか。もしかすると最近のキャプチャを通じて、人がどのくらい薄暗い画像を認識できるのかに関するデータを収集しているかもしれない。グーグルはその情報を使って、車のセンサーによる安全走行支援機能、すなわち自動運転車の訓練データのエッジケース(限界値で生じうる問題や状況)の解決を目指している可能性が高い。

 他社によって収集されているデータを観察し推論することで、自社が保持し投資すべきデータプロセスがどれなのかを理解しやすくなる。