2. コピー&ペースト

 企業によるデータの使い方を理解した後は、最も新しいテック系スタートアップがデータからどのように価値を引き出しているか調べてみよう。これらの企業はデータの使い方に関する「カンニングペーパー」を見せてくれるかもしれない。つまり、データを中核事業とする人々がどのように収益化しているのかについて、リーダーは理解を深めることができる。

 これらの企業でどのようなイノベーションが進んでいるのかを知るために、アーリーステージのスタートアップと技術検証(PoC)契約を結ぶことや、シードステージのスタートアップとデータ共有の合意を結ぶことを検討してみよう。ハイテク人材を引き付けるため、そして自社の長年にわたるオペレーション上の問題解決に向けて、データ中心のAIソリューションを見つけるために、企業向けのハッカソンを主催するのもよい。

 最新の製品と最先端のアイデアを学ぶために、スタートアップの創業者や影響力のある開発者が読んでいるニュースソース、『ハッカーニュース』や、サブスタック(ニュースレター配信プラットフォーム)の機械学習関連記事なども読んでおこう。オンライン決済サービスのストライプが10年前に自社の製品を発表した場所は、フォーチュン500企業が集まるカンファレンスではなく『ハッカーニュース』だった。

 最新のアプリケーションに目を向け、自社の事業に転用できるかを考えてみよう。破壊的技術を無視せずに、それらを自社のビジネスニーズのためにどう使うかを考えるのだ。

3. 自社開発せずに購入する

 データの獲得と管理に伴う問題の多くに対し、SaaSソリューションがすでに存在する。残念なことに、企業は既製のソリューションを購入するのではなく、社内で問題を解決しようとする場合が多い。

 多くの大企業はデータ管理ツールを自社で開発するが、それらはほかのテクノロジーと一緒に進化せず、扱いにくく、低速なインフラとなってしまう。新しい企業がこの種のツールを自社で開発しようとする場合、市場に投入するまでの時間が延び、先行者優位を逃すリスクを冒すことになる。

 自分たちのユースケースは自前の特別なインフラを要するほど特殊である、という錯覚は禁物だ。社内データインフラのツールは開発に何カ月もかかり、維持費は高くつく。成果物は往々にして、すでに市場にある製品よりも劣っている。

 可能な場合は、常にデータの構築と管理に必要なツールはつくるのではなく買うべきだ。それらのツールが事業の中核要素でないならば、自社で改めて開発するのはやめるべきである。そうでなければ、自社の機械学習モデルの開発が遅れることになる。機械学習モデルこそ、競争優位に寄与し、費用の節約につながる製品なのだ。

4. データモートの構築を始める

 一般的な事業部門の中で大量のデータを収集することは、より高い価値を生む活動に使える構造的な「データモート」の構築を始めるうえで役に立つ(モートは城などを囲む堀の意味から転じて、他社の攻撃から自社を守る優位性を指す)。このモートはやがて、他社が渡れないほど大きくなり、データによる競争優位をもたらすかもしれない。

 自動運転車市場で有力な2社、ウェイモとテスラの例を考えてみよう。

 ウェイモは自社のモデルの訓練に適したデータを獲得するために、車両を走らせて何千時間もの道路走行映像を処理することに膨大なリソースを費やしている。

 約200万台の電気自動車を売上げてきたテスラは、自社車両の自動運転ソフトウェアを使う何千人ものテスラ車オーナーから容易に入手可能なデータを活用できる。事故や人間の行動など、さまざまなことに関する情報にアクセスできる。この大規模な実環境データを有することで、テスラは競争で優位に立っているのだ。

 加えて、もしテスラが自動運転車の野望を断念する決断をしても、貴重なデータの在庫をほかの自動運転車企業に販売して儲け続けることが可能だ。

 したがって、自社のデータは捨てないほうがよい。将来の事業目標の実現に向けて、後々になって使える時が来るまで収集し保存すべきである。

 ロックフェラーと原油の副産物に関する逸話を考えてみよう。製油所の所有者の大半は、原油を灯油にするときの副産物を廃棄物と見なし、捨てていた。しかしロックフェラーは、そこに価値を見出した。ろうそくメーカーに売るためにパラフィンワックスを収集し、医療用品企業に売るためにワセリンを収集したのである。ロックフェラーのようになるべきだ。データを保存しておけば、のちに収益化できる。いま現在の主力製品でないからといって、無用の副産物として扱ってはならない。

 

 AIと機械学習が贅沢品だった時代は終わった。大手テック企業でなければ手の届かないものではなくなったのだ。強力な新型ツールが以前よりも利用しやすくなったとはいえ、企業はそれらをいかに戦略的に使うか、そしてそれらを動かすデータについてどう考えるべきかを学ぶ必要がある。その学びの中でこそ、AIの競争優位が具体的な形で見つかるはずだ。


"4 Steps to Start Monetizing Your Company's Data," HBR.org, September 27, 2022.