
テクノロジーの進化、文化の変容、パンデミック、世界的な紛争……劇的なスピードで世界が姿を変える一方、それらの要因によって消費者の価値観や優先順位も激しく揺れ動いている。不確実で混沌とした外部要因に左右される状況で、企業が従来の「カスタマーセントリシティ」(顧客中心主義)に留まっていては、その変化に対応できない。そこで、筆者らが推奨するのが「ライフセントリシティ」(生活中心主義)への移行だ。本稿では、顧客を「予測不可能な外的要因によって深く影響を受け、常に変化し続ける複雑な人々」だと理解する必要性を説き、変化し続ける顧客ニーズに適応するための3つのアプローチを論じる。
外部要因の激変がもたらす「矛盾した判断」
ほんの20年前まで、ある曲がビルボードのチャートで20週にわたってトップ100にランクインするのは、よくあることだった。しかし、いまはそれも2週間程度だ。同様に、かつてはキャリア全体を通じて有効だったスキルセットも、現在では3~5年ごとに一新しなければならない。
企業の寿命も急速に変化している。S&P500企業の平均寿命は、1965年時点では32年だったのに対して、2020年の段階では21年余りとなっており、2020年代を通じてさらに低下することが予想される。
商品やブランドに対して顧客が愛着を感じるレレバンス(関連性)が高い期間は、かつてなく短くなっているが、何も驚くことではない。テクノロジーの進化、文化の変容、パンデミック、世界的な紛争などが、記録的なスピードで世界の姿を変えている。その結果、単に変化のスピードが増しているだけでなく、変化がより深いところで起きている。
このような不確実で混沌とした外的要因に直面し、人々は「自分は何者なのか」「自分にとって何が重要なのか」を再考している。
アクセンチュアでは、世界の消費者2万5000人を対象とした調査を実施し、その結果を2022年7月に発表した。この調査では、世界的な出来事に基づいて優先順位が変化していると60%が回答している。また、ほぼ同数の人が、2022年に人生の目的や価値観を完全に見直したと答えた。その割合は、2021年の50%から上昇している。
これらの変化と日常生活の現実を調和させる中で、消費者は「矛盾した決断」を下しているのが現状だ。サステナビリティといった価値観に基づいて買い物をしたいと思う一方で、値段以上に価値があるものを求めてもいる。自分自身の利益のために行動したいが、同時に他者のために変化を起こしたいとも考えている。完璧なソリューションがない中で、彼らは、その時々にできる最善の選択をしているのだ。
矛盾した決断は新しいことではないが、それに対する人々の受け入れ方は変化している。実際、消費者の70%近くが、矛盾した行動を取ることは非常に人間的であり、完全に許容できると答えている。
しかし、消費者は同時に、企業がそれに応える必要があるとも主張している。顧客のおよそ3分の2が、変化する自分のニーズに対して企業が迅速に対応できていないと感じている。
このようなニーズに対応し、ビジネスをグローバルに成長させるべく、次なる大きな波を解き放つには、新たなアプローチが必要だ。