意思決定システムや組織能力が
サイバー文明に適応できていない
宍倉 世の中の変化が非連続で、かつ非常にスピーディな状況においては、顧客接点もモジュール化しておかなくては、ユーザーのニーズに対応できません。また、1社だけがモジュール化していても、他社のモジュールをシームレスに組み合わせて柔軟にサービスを提供していくことができません。外部との接続が重要なポイントになりますね。

デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員
AIスタートアップ、国内系コンサルティング会社を経て現職。先進技術を用いた新規ビジネス創出、業務の変革等、企業のデータドリブン・トランスフォーメーション実現に従事。データサイエンス領域における戦略策定・業務変革、組織設計・人材開発に強みを持つ。『ビッグデータ総覧』(日経BP)など著書・寄稿多数。
國領 単につなげるだけならAPIを活用すればいいのですが、サイバー文明社会の構造をよく理解したうえで、どのモジュールを自社開発し、どれを社外のモジュールとつなぎ合わせるのか。外のモジュールとの連動性もありますので、結構難しい。
大事なのはやはり、社会の流れに合わせてどういうレイヤー構造にするかというアーキテクチャーです。
宍倉 モジュール化に加えてデータ中心設計を実現するために、いま取り組むべき課題は何だと思われますか。
國領 非常に地道ですが、データの整形や標準化でしょうね。よくあることですが、企業でも役所でも部門ごとにデータベースがあって、名簿データ一つを取っても、漢字コードやカナ表記がばらばらで、情報がつながらない。そこが解決すべき一番の課題じゃないでしょうか。
河原 私たちもいろいろな企業を支援させていただく中で、たとえばサプライチェーンの最適化を図るために他社とデータ連携したいといった相談をよく受けるのですが、社内でどのようなデータがどこにあるのかわからないとか、同じようなデータが複数あってどれが本当に信頼できるものなのかが判断できないといった事態に直面することがあります。
まずは社内にあるデータを一元管理して、信頼性を担保しないと、そこに新たなデータを付加したり、社外のデータを連携させたりして価値を出していくことは難しい。ですから、おっしゃるようにデータ中心設計の第一歩は、社内データの信頼性を高めることだと思います。
最近では、AI(人工知能)を活用して、データをひも付けたり、整理したりすることも可能です。データの標準化をアジャイルに進めるうえでは、AI活用を視野に入れるべきだと思います。
國領 AIを使ってばらばらになったデータを統合できるということを理解したうえで、少し思い出話をさせていただくと、私が留学していた1980年代終わりから90年代の初めにかけて、米国経済は不調でした。そのため、会社の分割・売却や合併など、業界再編が活発に行われていました。
事業を統合したり、企業合併したりする際にシステムやデータがばらばらだと非常に都合が悪い。そのため、米国ではシステムやデータをカスタマイズするのをやめ、オープンなシステムでパッケージソフトを使い、データも標準化するという動きがいっきに加速しました。
他方、その頃の日本はバブル経済で、いくらでもお金をかけられたので、部門ごとにカスタマイズしたシステムをつくっても誰からも文句を言われなかった。その結果でき上がったのが、ツギハギだらけの大規模システムです。それらがいまでも稼働していて、いわゆる「2025年の崖」という問題につながっています。
宍倉 2025年の崖は、システムをモジュール化し、データを標準化して大きく変わるチャンスなのですが、それ以前の問題として、意思決定システムや戦略、あるいは企業文化を含めた組織能力がサイバー文明に適応できるものになっていないため、大きく変わることが難しいという面があります。
國領 いまだにITやデジタルはコストだと思っていて、成長のための投資だという認識が薄い企業もありますからね。
昔は米国が短期志向で、日本が中長期志向だといわれていましたが、いまは逆ではないでしょうか。大きな時代の流れを見て戦略的に投資するのではなく、目の前の経費削減のためにITやデジタルを使おうとするので、どうしても節約志向になってしまう。