皿の上だけでは
日本料理は勝てなくなる

柴田 和久傳が受け継いでいきたいものは何ですか。

桑村 一つは、築いてきた信用です。売上げや利益は一度落としても取り戻せますが、お客様や仕入先、銀行、地域の人たちなどと築いてきた信頼関係に亀裂が入ると、修復するのは大変です。信用を持続させるには、どんな小さな問題からも逃げずに真っ向から受け止めること。ごまかそうとすると亀裂が大きくなります。

 もう一つは、皿の上だけでは完結しない日本料理の奥深さです。建物や庭、部屋の中の掛け軸や座布団など、それぞれのしつらえに意味と味わいがあり、それらがすべてつながって文化としての日本料理を形づくっています。

 皿の上だけでは、日本料理が勝てなくなる日がいずれ来るかもしれません。たとえば、高級な食材ほど高く売れるマーケットに行ってしまいますから。

 皿の上だけではなく、文化として育てていくというのは経済合理性からいうと効率が悪いですが、そこをおろそかにすると日本料理は残らない。逆に、そこをしっかり受け継ぐことができれば、私が経営者でなくなったとしても、和久傳は残っていくと思います。

柴田「不易流行」が和久傳の経営指針の一つだということは存じていましたが、今日のお話を伺ってあらためて和久傳の神髄を垣間見た気がします。

 和久傳が継承していくべきDNAを形として可視化して、文化にまで昇華させる。また、すべての根幹にあらゆる関係先との信頼関係を位置付けるというのは、まさにサステナビリティの精神に相通ずるものだと思います。

 伝統と革新の両立と言うのは簡単ですが、それを実現するには経営者の強い信念を周囲に伝播させる努力に加えて、組織が常にフレッシュであるためのメカニズムが必要であることがよくわかりました。和久傳の組織づくりには、多くの企業にとって見習うべき点が多々あると思います。そして何より、桑村さんはご自身の信念や直感を大事にしながら、とても自然体で経営をされている印象を受けました。

桑村 偉そうなことを申しましてお恥ずかしい限りですが、そう言っていただけて嬉しいです。

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