異なる分野の人たちと知り合い、目線とモチベーションを上げる

波江野 池野先生もエンジニア、MBA取得者と一緒に起業されたということでしたが、異なる専門性や人脈を持つ人材がチームを組んでイノベーションにチャレンジする環境があるのもシリコンバレーの特徴ですね。

池野 おっしゃる通りです。よくいわれるようにイノベーションを創出するには多様性が必要ですし、ノウハウだけではなく「know who」がとても重要です。

 私がスタンフォード大学に留学した当初、日本との大きな違いを感じたことの一つが、小さなパーティが非常に多いことでした。勉強会や研究発表会などの後にも、軽食が用意されて簡単なパーティがあるわけです。最初は何のためにそんなにパーティを開くのかと思っていたのですが、人的情報資源のネットワークを広げるためなんですね。

 たとえば私の場合、ふだん研究をしていると、自分の周りにいる大学の人、大学病院の医療従事者くらいしか知り合いはできないのですが、パーティでは異なる分野の人たち、違う専門性を持つ人たちと知り合うことができます。何らかの共通の目的で集まった人たちなので、分野は違っても志をシェアできることが多く、そこで培ったネットワークからやがてイノベーションへのチャレンジが生まれることも多いのです。ネットワークを広げるコツは、知り合いだけで固まらないこと、知らない人と積極的に話すことです。

波江野 デロイト内でも、バークレーにいた時もそうですが、異なる専門性を持つ人と話せば話すほど、新たな気づきを得られますし、違う分野で活躍する人と話すことで自分の目線が上がります。そういう経験を多く積めば、「know who」の重要性を実感できますし、仲間を集めて自分も新たなチャレンジをしてみようというモチベーションが高まりますね。

波江野 武
TAKESHI HAENO
デロイト トーマツ コンサルティング/モニター デロイト
パートナー 執行役員 ヘルスケア ストラテジー

池野 ファーストペンギン(集団を抜け出して最初に行動するベンチャー精神のある人)って、リスクとストレスがあるんですよ。それは日本も米国も同じです。違いがあるとすれば、米国はロールモデルが多いことです。スタートアップを立ち上げて成功した人、患者さんや社会に大きな価値をもたらした人、そういうロールモデルになる人がもっと増えてくると、日本もいっきに変わるのではないかと期待しています。

立岡 最後に読者へのメッセージをお願いできますか。

池野 食べていくための仕事を「ライスワーク」といいますが、それだけだとストレスがたまるし、パフォーマンスも落ちます。自分の人生の中で本当にやりたい仕事、つまりライフワークがライスワークと一致していれば幸福感が高まるし、そういう人は活きいきとしています。もちろん、誰もがそうなれるわけではないし、100%一致するということも難しいでしょうけれど、自分の人生を選択し、できるだけ一致させる努力を続けることは重要だと思います。

 やはり人生は一度きりですから、自分ができる範囲で何か新しいことにチャレンジしてほしい。それが人生を大事に生きることにつながるはずです。たとえば、医療関係の仕事に携わっていて、新しいことにチャレンジすることが人の命を救うことにつながるならば、それほど素晴らしいことはないと思います。

 私は日本のいくつかの大学で客員教授をしていて、医学生を前に話すことが多いのですが、医者の卵たちにもそういうことを語っています。彼ら彼女らは偏差値エリートで、やや視野が狭い傾向があるので、未来の医師たちの視野を少しでも広げてあげること、心に火をつけることが社会貢献にもなるのではないかと思って、手弁当でも出かけていって若い人を相手にしゃべっています。

波江野 私たちも健康医療課題にライフワークとして取り組む仲間とともに日々仕事に取り組んでいるわけですが、先生のお話を伺って、これからも私たちなりに精一杯尽力しなければならないという思いを一層強くいたしました。どうもありがとうございました。