自社の戦略プロセスをマッピングする
戦略プロセスは、少なくとも4つの段階で構成される。まず、「戦略の分析」の段階。それに続いて、「アイデアの創出」
ポールの不安は、戦略プロセスを狭く考えて、そのプロセスを主に「選考」の過程とみなしているために生まれている。もしあなたがポールのような考え方をしているのであれば、考えを変えたほうがよい。参加型の戦略プロセスを採用した場合も、意思決定者が選考の権限を失うわけではない。むしろ、意思決定者の選択肢が増えるというメリットが期待できる。その恩恵は、アイデアの創出段階でとりわけ大きい。
そこでまず、自社の戦略プロセスをマッピングして、どの段階でイノベーションとアイデアが不足しているかを見極めよう。そのような段階では、多くの人に参加してもらうことの恩恵がことのほか大きいかもしれない。
自分の弱点を明らかにする
戦略立案は、協働を通じた発見のプロセスだ。最良のアイデアは、自分があまりよく知らない物事の中に潜んでいる場合も多い。
州の宝くじ事業を運営している公的な事業体でCEOの地位にあるレーチェルのケースを見てみよう。レーチェルは、どのような戦略を採用すべきか自信を持てなかったため、新しい取締役会を招集し、業界における変化と新しいトレンドを明らかにして、戦略上の選択肢を模索しようと考えた。しかし、その際、取締役たちだけでなく、幹部チームの面々やそのほかのスタッフメンバーも話し合いに参加させた。その26人の集まりは、「ブルースカイ・セッション」(自由で開かれた議論の場)と呼ばれた。
レーチェルは、自分が何でも知っているかのように装うのではなく、自社の戦略プロセスに役立つアイデアを積極的に探そうとした。では、そうした行動を取ったことにより、レーチェルは間抜けだと思われたのか。そのようなことはまったくなかった。このように包摂と参加を重んじるアプローチはリーダーらしい姿勢と見なされて、戦略プランニングのプロセスが活気づいた。
情報を大量に集めることを前提にする
戦略立案を発見のプロセスと位置づける発想を受け入れた後は、大量の複雑なアイデアを歓迎する発想を受け入れる必要がある。戦略立案は、再現性のあるコントロール可能なプロセスではなく、イノベーションの取り組みと見なすべきなのだ。
ミーガンは、そうした考え方に基づいて行動しているマネジャーの好例だ。市議会事務局のゼネラルマネジャーを務めるミーガンは、コントロールを手放すことにより、フレッシュな思考を実践するチャンスが得られるのではないかと考えた。それまで、ミーガンとチームのメンバーは、もっぱら州政府の要求に応えることを考えて戦略関連の文書を作成していた。そうした文書は退屈な内容で、形式を整えることばかりを優先したものになりやすく、イノベーションと説得力を欠いていた。
この状況を変えるために、ミーガンは戦略プランを生成するプロセスに地域コミュニティを参加させたいと考えた。その手立てとして、表をつくることにした。その表の左端には、重要なステークホルダーを上から下へ並べ、表の上部には、ステークホルダーを参加させる方法の選択肢を左から右へ並べた。
ステークホルダーを参加させる方法として表に記した選択肢の中に
ステークホルダーの参加を確保するために用いる方法は、ローカル企業や高齢者など、それぞれのステークホルダーのタイプに合わせたものを選択した。また、ステークホルダーの参加を通じて得られたアイデアを検討して分類することも忘れずに計画に盛り込んだ。評価チームも採用して、ステークホルダーの反応をコード化し、データの相関分析を行い、市議会事務局の幹部と議員たちの心の琴線に触れるような形でアイデアを示させることにした。
ミーガンはこう述べている。「私たちが古いやり方に戻ることはけっしてありません。新しい参加型のアプローチを採用したことにより、私たち幹部チームは、市民が求めているものを提供できているという自信を持てるようになりました。そして、地域コミュニティが私たちの戦略プランを理解できるようになり、戦略の実行も容易になりました」
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デジタル時代が到来して、戦略の設計と実行を取り巻く環境は大きく変わった。今日の人々は、あらゆる物事に自分なりの意見を抱き、その意見を表明することを当たり前に感じるようになっている。あなたの会社も、そうした意見表明の対象になることを避けて通れない。
この点は好ましい材料といえる。市場における戦略上のインサイトという巨大なリソースを活用する道が開けたのだ。そうした新しい現実を受け入れれば、これまでよりも幅広い社内の人材と、社外の重要なステークホルダー(顧客、納入業者、地域コミュニティなど)からアイデアを得られるようになる。
もっとも、それが常に簡単に行えるとは限らない。こうしたアプローチが実践され始めたのは、まだ比較的最近のことだ。それでも、情報の量が爆発的に増加し、それに伴って情報の複雑性が高まっている状況に対処することは、今日の私たちが向き合わなくてはならない戦略上の課題なのである。
"Leaders Need to Get Comfortable Collaborating on Strategy," HBR.org, March 27, 2023.