顧客は不正検知を求めている
活用法の一つである不正検知については、すでに顧客は機械学習による予測を強く求めている。実のところ、彼らが声高に苦情を訴えるのは予測がうまく機能しなかった時である。失敗は2種類ある。まず、顧客はクレジットカードの請求書に思ってもみなかった料金が記載
顧客体験を最大限に高める唯一の方法は、こうした2種類の予測ミスを最小限に抑えることである。そして、ここが機械学習の出番なのだ。
機械学習はデータを学習して、予測を向上させる科学である。これが機械学習の定義だ。
カード詐欺の防止では、フェア・アイザック(FICO)が業界のリーダーである。FICOのカード不正検知システム、ファルコンは9000の銀行で利用され、世界のほとんどのクレジットカードやATMカード(世界で26億枚)の全取引をスクリーニングしている。機械学習の不正検知によって、中規模銀行は約1600万ドルを節約できるうえ、カード所有者が体験する詐欺を約6万件減らして顧客体験を向上させている(おおまかな算定はこちらを参照)。筆者は、機械学習の商業的な活用という点において、ファルコンは世界で最も成果を上げ、広く影響を与えている事例の一つであると考えている。
ファルコンの運用はほとんど人目に付くことはないが、こうした見えない効率化は多くの場合、最も注目を集める予測機能よりも顧客体験に貢献している。消費者にお馴染みの有名な機械学習システムで、返済能力を評価するFICOクレジットスコアよりも、ファルコンは個々の消費者に頻繁に影響を与えているのだ。多くの人がスコアを自分の消費者としてのアイデンティティにおける重要な要素と感じるのは当然だろう。だが一方で、ファルコンの不正検知は、ふだんは消費者からは見えないものの、頻繁に、すなわちカードを使用するたびに、彼らの体験に影響を与えている。FICOは日夜、消費者の経済力を評価する一方で、経済犯罪と戦っているのである。
人を助ければみずからも助かるという好循環をつくり出す
実績ある機械学習の活用例はほかにも多くあり、収益だけでなく顧客体験にも貢献している。たとえば機械学習を利用して、カスタマーサービスの電話を転送するなど顧客からの問い合わせフローを効率化したり、フィッシング、偽情報、不快なコンテンツといった不正以外の悪意ある行為を検知している。
もちろん、企業は顧客を助けることによってみずからをも助けている。こうした顧客体験の向上は、単にあればよいという程度の、利益主導の機械学習活用がもたらす副産物に留まらない。むしろ企業の存在理由、すなわち顧客に対するサービスの追求であり、最終的には企業のさらなる便益に転換されていく。
結局のところ、より満足した顧客はよりロイヤルティの高い顧客となり、そのような顧客の定着率が上がれば、事業の成長率も上がる。収益と顧客体験の向上という二重の目的のため、機械学習の活用により早く着手すれば、企業はより早く、この好循環を活かせるようになるのである。
"How Machine Learning Can Improve the Customer Experience" HBR.org, March 24, 2023.