
機械学習による価値提案が注目されない理由
機械学習は、経験(データ)を学習して個人の行動を予測するテクノロジーである。機械学習によって主要な事業がより効果的に運営され、収益の向上につながることはよく知られている。しかし、同時に顧客体験も大きく向上する可能性があることはご存じだろうか。
機械学習は個々の顧客の行動を予測し、その予測がそれぞれの顧客へのサービス向上に活かされる。機械学習は反応する可能性の高い顧客にキャンペーンの対象を絞り込んだり、不正の可能性のあるクレジットカード取引を無効にしたりすることができる。また、受信トレイからスパムメールを削除したり、顧客が最も関心を持ちそうな物件(エアビーアンドビー)や検索結果(グーグル)、商品(アマゾン・ドットコムやネットフリックス)、恋愛の相手(マッチドットコム)を表示したりすることもできる。
こうした明確な価値提案があるにもかかわらず、機械学習はまだそれほど広範かつシームレスに活用されていない。問題は、世の中が主に中核となるテクノロジーの先進性や素晴らしさに注目するあまり、具体的な価値提案、つまりどのようにしてビジネスプロセスをより効果的にするのかという点から、意識が逸れていることにある。その結果、ほとんどの機械学習プロジェクトが失敗し、意図したビジネス価値が実現されていない。しかし意思決定者が、機械学習は収益だけでなく顧客体験にも大きな影響を与えることを認識するようになれば、企業は機械学習で具体的な価値を生み出すことに関心を移し、最終的には機械学習の活用が加速し拡大するだろう。
機械学習を用いて顧客体験を向上させる方法
なぜ機械学習は顧客体験を向上させる有望なテクノロジーだといえるのだろうか。その理由は単純で、顧客の行動を予測できるからである。予測能力は、個々の顧客のニーズを見越し、それに合わせて商品やサービスをパーソナライズするという誰もが渇望する能力だ。顧客の視点に立つと、機械学習の倫理面での落とし穴を回避できるなら、予測能力は誰もが日々直面する情報過多に対しての究極のソリューションになりうる。
機械学習を活用して、どのコンテンツが個々の顧客にとって最も関連性が高いかを予測することで、顧客はより適切なレコメンデーションを得ることができ、必要のないメールは減り、受信トレイのスパムメールはほとんどなくなる。そして何より、質の高い検索結果を得られようになるだろう。
この能力は幅広い可能性を秘めている。機械学習の予測はどの事業部門や業界においても、顧客体験を高めることができる。下図では、ビジネスにおける機械学習の活用法として定着している7つの事例を挙げている。それぞれが収益向上につながるビジネス価値(左端の欄)と顧客体験(右端の欄)に影響を与えている。