
日本のヘルスケアの質は世界の中でも総じて高いほうであるが、医療費の増大という眼前の危機がその持続可能性を揺るがしている。他方、がんや希少疾患などの領域を中心とした満たされない医療ニーズにも対応していかなくてはならない。その両方の問題を解決するカギが、データ活用とエコシステム形成にあると武田薬品工業(タケダ)の古田未来乃氏は指摘する。タケダが見据える患者中心の次世代ヘルスケアについて、デロイト トーマツ グループの長川知太郎氏と西上慎司氏が聞く。
仕事を通じた学びがモチベーションに直結する
西上 古田さんの略歴を教えていただけますか。
古田 金融業界でキャリアをスタートし、不良債権処理やプライベートエクイティ(未公開株)投資などをやっていました。投資先の経営会議に出たり、経営者と話したりする機会が多く、時にはタフな決断をお願いしなくてはならない立場だったのですが、私自身は自分で事業を回したことも、大きな組織を率いたこともなく、そこに自己矛盾を感じていました。
どんなサイズでもいいので組織をマネージする経験を積みたいとも考えていました。特に、社会に貢献することができるものづくりの業界に転身したいと思うようになり、縁あってタケダに入社しました。
西上 ものづくり企業にもいろいろありますが、ライフサイエンス業界を選択した理由は何ですか。
古田 私自身はライフサイエンスのバックグラウンドがあるわけではないのですが、タケダには研究から開発、製造、コマーシャル(営業)までバリューチェーンがフルにあります。つまり、ビジネスとして付加価値をつけるポイントがたくさんあるので、学びの種が尽きないと思ったのです。
西上 「学び」というキーワードが出てきましたが、古田さんがリーダーとして仕事をする中で大切にしていることは何ですか。
古田 リーダーであるかどうかに関係なく、個人として働くうえで大事にしているのは、まさに「学び」があるかどうかです。私の場合、それがモチベーションに直結するし、学びがある時は、パフォーマンスも高まる実感があります。
過去の経験を貯金として使う仕事よりも、同僚や社外のパートナーと話し合いながら学びを得て、新しいソリューションを見つけたり、社会に対して価値を生み出したりすることに喜びを感じます。
長川 リーダーが学びに対する貪欲さを持つのは、とても大事なことです。役職が上がるにつれ、学ばなくなる人がいますが、フラットな姿勢で人から学び、成長し続けるリーダーでないと変化の速い時代を乗り切ることはできません。
古田さんの貪欲に学ぶリーダーシップスタイルは、何かのきっかけがあって生まれたのですか。
古田 私はタケダに入社してから数年、日本とスイスでコーポレート部門の仕事をした後、みずから希望してメキシコのコマーシャル部門に赴任しました。