よかった頃に対する郷愁

 入社して数カ月もしくは数年間、充実した日々を過ごしたあなたは、仕事にすっかり熱中している。そこにある変化が起こる。リーダーの交代か、組織変更か、戦略的方向性の転換か何かだ。あなたはそれになかなか馴染むことができない。

 会社側のこのような変化によって、ショック、現実否定、フラストレーション、抑鬱といった感情が引き起こされることがある。もしあなたがいつまでも変化を受け入れられず、適応できず、「仕事が好きだから辞めたくない」ではなく、「会社が好きだから辞めたくない」と考えているとしたら、あなたは過去に囚われ、会社がかつての状態に戻ることを虚しく期待している可能性がある。

対処法

 変化はつらいものなので、それが自分の仕事にとって何を意味するのかを考え、対応する猶予を自分に与える。変化を受け入れたのち、現状がまだ自分の価値観やキャリア目標を満たしているかどうか客観的に判断する。その後も変わらずつらければ、次のように自問してみよう。

・入社当時はどのような会社で、現在の会社の実態はどうなっているか。

・どうすれば自分にとってよりよい環境になるか。

・満たされなくなった価値観を満たすために、何かを変えたり、要望を出したりすることはできるか。

 企業、チーム、リーダーは、成長中の会社なら特に変わるものだ。いまの現実を生きるか、いまは存在しない過去を生きるかは、あなた次第だ。

株式の呪縛

 企業の中には、従業員に譲渡制限付株式ユニット(RSU)やストックオプションなどの株式報酬制度を導入している所がある。株式付与は、一定の勤続(通常は数年)を条件としている。そのため、職場環境に苦しんだ人は、その分なおさら、その権利が確定するまで待たなければ損だと考えがちだ。

 しかし、あなたはどれだけのトラウマに耐えるつもりだろうか。株式が付与されるのを待っていると、健康を害する可能性もあるため、その価値があるかどうかをよく見極めることが大切だ。

対処法

 権利がいつ確定し、現在の株価でいくら受け取れるかを正確に理解しておこう。自分でわからない場合は、担当のブローカーや会計士に以下の質問をしよう。

・税金と権利行使価格を引いた後の受け取り額はいくらなのか。

・この権利を放棄した場合、または権利の確定まで待った場合、リタイア後資金にどのような影響があるか。

・権利未確定の株式価値を埋め合わせるには、他の会社でいくら報酬を得る必要があるか。

 株式報酬は、従業員をつなぎとめるための制度であり、勤続年数に応じて追加付与する報酬制度を採用している企業は多い。したがって、「最終的な権利確定日」はない。しかし、退職前にどれだけの株式の権利を確定させたいか、どれだけの株式を放棄してもかまわないかに基づいて、退職の時期を決めておけば、終わりのない権利確定サイクルを断ち切ることができる。

不安

 転職となると、不安なことだらけである。転職先でも同じようにひどい状況が待っているのではないか、また一から自分の力を周囲に認めさなければならないのではないか、収入が減るのではないか。どうやって仕事を探せばよいのかさえわからないという不安。ひどい職場に打ちのめされた状態だと、不安から、変化を起こすことがよりよい職場環境につながるという自信を持てないかもしれない。

対処法

 不安を取り除くには、良好な職場環境での日常をただ夢見るのではなく、意識的にイメージすることが重要だ。目を閉じ、ネガティブな考えや不安と闘うために、次のように考えよう。

・恐れずに辞めることができたら、どのようなことが可能になるだろうか。

・新しい職場環境は、どのような様子、におい、感じなのだろうか。

・自信を持って転職するためには、どのようなサポートが必要だろうか。

 最後に、自分と同じような職場状況にある親しい友人に、自分ならどのようなアドバイスをするか考えてみよう。

* * *

 嫌な会社を辞めるのはけっして簡単なことではないし、限界点は人それぞれ違うので、なぜトラウマになるような状況に長く留まったのかと自分を責めても何の解決にもならない。しかし、そのつど、経験から学ぶことで、自分のキャリアを自分で選択し、再び同じような状況に陥った時には、早めに辞められるようになるだろう。


"Why Is It So Hard to Leave a Bad Job?" HBR.org, September 21, 2023.