テクノロジーはサプライチェーン強化の原動力
不測の事態にも耐えうる強靭なサプライチェーンを構築するには、こうしたアプローチが重要になるが、最新のテクノロジーも、組織全体を成功に導くより強力なサプライチェーンシステムを構築できる。将来を見据えた経営陣は、生き残るためだけにテクノロジーに頼るのではなく、ビジネスを成功に導くためにテクノロジーを活用する。その戦術は組織によって異なるが、より強力なサプライチェーンを構築するためのアプローチをいくつか紹介する。
AIと機械学習を活用してサプライチェーンマネジメントを手助けする
AI(人工知能)と機械学習の登場で、サプライチェーンマネジメントは変革の時代を迎えた。マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、在庫管理にAIを効果的に活用することで、在庫保有コストを最大で20%、在庫切れを50%減らせるという。高度なアルゴリズムとデータ分析を活用すれば、AIと機械学習のテクノロジーによる需要予測の精度が高まり、企業は市場の動向や変動、顧客の嗜好をかつてない精度で予測できるようになる。
こうした予測能力は、効率的な在庫管理を促進し、過剰在庫を減らし、在庫切れを最小限に抑えて、運転資本を最適化する。さらに、AIと機械学習が主導するアルゴリズムはロジスティックスを最適化し、輸送ネットワークを合理化してコストを削減する。
コラボレーションをさらに深める
パンデミックによる影響の中で、最もわかりやすく、かつ永続的なものの一つは、組織のあらゆる階層の従業員が新しいコラボレーションスキルの習得を余儀なくされたことだ。1日のズームミーティングの参加者数は、わずか4カ月で1000万人から3億人に増えた。
組織内のコラボレーションが難しいことは繰り返し証明されている一方、サプライチェーンのマネジャーはそれ以上に、顧客、サプライヤー、パートナーとの組織外でのコラボレーションが不可欠になっている。特に、サプライチェーンのデータを共有する安全で簡単かつ信頼できる環境を提供するために、権限を設定したプライベートネットワークなど適切なツールの導入が必要になる。
包括的なサイバーセキュリティへの投資
サプライチェーンに対するサイバー攻撃は2019年から急増しており、2022年だけでも200%以上、増えている。こうしたケースの多くは、ベンダーや請負業者などのサードパーティの業者を通じてサプライチェーンのセキュリティの脆弱性が露呈したものだ。
幸いなことに、最新のプラットフォームは、サイバー攻撃と戦ううえで最も効果的な防御策になりつつある。マネジャーがすべてのリスクを予測して防御することはできないかもしれないが、最新のテクノロジープラットフォームは、脅威の一歩先を行く組織を維持するために不可欠である。
サプライチェーンの可視性を高める
これまでサプライチェーン全体の可視性は、「ワン・アップ」と「ワン・ダウン」に限定されていた。つまり、サプライチェーンのマネジャーが見ることができるのは、基本的に直接やり取りをするティア1(階層1)のサプライヤーと顧客の動向だけだった。しかし、複数の階層から成るサプライチェーンでは、3~4階層後ろで発生した混乱の影響を実感できないまま、手遅れになってから調整を試みることになる。
いまは最新のITプラットフォームによって、取引パートナーは権限が設定された安全な情報交換の場に集うことができ、そこで情報を共有しながら、可視性を向上させ、サプライチェーン全体のレジリエンスを構築できる。
パンデミックは、効果的なサプライチェーンの構築に投資するだけでなく、その維持も同様に優先させる必要があることを浮き彫りにした。効率的でレジリエンスのあるサプライチェーンを構築するためにどれだけ専門知識を投入しても、変化し続けるこの世界において、サプライチェーンはけっして完成させられないと認識すべきである。
サプライチェーンを常に「ベータ版」と位置づけ、継続的に向上させるために必要なテクノロジーとインサイトに投資することによって、世界的な供給不足を回避できるだろう。リアルタイムのインプットに反応し、移り変わる需要に合わせて進化するサプライチェーンを構築する作業は、完成することはない。しかしだからといって、始めない理由にはならないのだ。
"Using Technology to Improve Supply-Chain Resilience," HBR.org, September 25, 2023.