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工業社会の終焉、サービス経済の台頭
サービス産業はこれまで40年以上も、おおむね伝統的な大量生産・大量販売に基づく工業社会モデルに従って、つつがなく経営されてきた。しかし今日では、この工業社会モデルはもはや時代と不適合を起こしており、すでに製造業で立証されたように、サービス産業だけでなくアメリカ経済全体にとっても、長期的な健全性を脅かす危険な存在となっている。
工業社会モデルのままでは、企業が提供するサービスの質が低下することは不可避である。そして、顧客や従業員、株主、ひいては国民経済にも等しく不利益をもたらす悪循環を招きかねない。その弊害は、顧客の不満、各企業およびサービス産業全体の生産性の停滞といったかたちで表れる。
一例として、現在マクドナルドが直面している状況を考えてみよう。1955年、レイ・クロックがハンバーガー・チェーンの第1号店をオープンさせたその日から、同社の運営方法は、ファスト・フード店だけでなく、ホテルや小売店、銀行等、すなわち、顧客と従業員が接するところに価値創造の源泉が存在する業種においては、均質のサービスを効率的に提供するモデルとなってきた。
その方法はすべて、迅速なサービスと清潔な環境、均一な商品を保証するように考え抜かれたもので、そこでは偶然や個人の裁量に委ねられるものは皆無である。言うまでもなく、マクドナルドのフランチャイジーでは、ツナ・サンドイッチを売り出すことも(厨房にそれをつくる場所がない)、カウンターで働く従業員がフライド・ポテトを定量以上(あるいは定量以下)に盛ることは許されていない。
この大量生産方式は目覚ましい成果を実現してきた。マクドナルドは長い間、成長率と収益性の両面において業界トップの座を占めてきた。ところが80年代末、事態は一変した。まずマクドナルドは平均以上の従業員を確保できなくなった。この傾向はことに郊外において顕著であった。さらにインフレと共に建築費が急騰した。
そして創業以来、初めてアメリカ国内のチェーン店の売上げと営業利益が停滞、もしくは下降し始めた。ライバル企業が、豊富なメニュー、低価格の商品、あるいはその両方を提供するようになると、マクドナルドの客離れはいっそう進行した。これを何とか食い止めようと努めたが、運営方法そのものが足を引っ張る結果となった。
マクドナルドのような古いタイプのサービス企業は、新しい競争相手からこれまでにない圧力をかけられている。ここから逃れるには、生産ライン的な思考では無理がある。新しいタイプの顧客を引きつけ、これを囲い込むには、現在の悪循環を断ち切るような、抜本的な方策が必要なのだ。
その原理は単純である。つまり、旧いモデルは顧客に直接サービスを届ける従業員を最後尾に置いていたが、新しいモデルでは、これら顧客接点を預かる人々を最優先し、マネジメント・システムの中心に据えるのだ。