パーパスを誠実に実践するリーダーは、最高の人材を惹きつける
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サマリー:筆者は34年という長い時間を、エグゼクティブサーチ会社のエゴンゼンダーで過ごした。これだけ長期間勤め上げたのは、創業者であるエゴン・ゼンダーおよび同社のパーパスと自分自身の価値観が驚くほど一致していると... もっと見る感じていたからだ。本稿では、筆者の体験を踏まえながら、会社のパーパスと個人の価値観の一致がいかに重要であるかを述べたうえで、その実現を支える5つの規範を紹介する。 閉じる

パーパスとのつながりを感じているか

 スイス屈指の高級ホテルにある優雅なバーで、チューリッヒの街の明かりに照らされて静かに降る雪を眺めながら、筆者は苦悩していた。キャリアの進路を変えるかもしれない、プロフェッショナルとしての岐路に立っていたのである。

 その数カ月前、筆者は欧州のマッキンゼー・アンド・カンパニーでの有望なキャリアを捨てて母国のアルゼンチンに戻り、エグゼクティブサーチ会社であるエゴンゼンダーの現地オフィスに入社することにした。ロンドンとパリ、ブリュッセル、コペンハーゲン、チューリッヒのオフィスを5日間で見学し、同社のパーパスの3大柱(「顧客第一、質の高い業務、唯一無二のパートナーシップ・スピリット」)を知った。そして最終面接で、「最も優秀なリーダーを世界中の組織で最も影響力のある職務に就かせることによって、よりよい世界を実現する」と創業者のエゴン・ゼンダーが説明したビジョンに深い感銘を受けたのである。転職に迷いはなく、筆者は即座に心を決めた。

 ところが新しい仕事を始めてまもなく、会社が信奉しているはずの原則の多くが公然と破られている事態に直面した。どうすればよいのだろうか。公言した原則はただの空疎な言葉だったと見なして退社するか、それとも会社のリーダー陣に率直に懸念を訴えるか。

 本社から遠く離れた小さな支社の新参者にすぎない筆者だったが、直接、ゼンダーと話すことにした。気づいたことを率直に伝え、どう感じたかを説明し、問題の解決を求めた。もし彼にそのつもりがないか、できないのであれば、退職しようと思った。そのようなわけで、ホテルのバーにいたのである。

 ゼンダーは私の訴えを聞くと、どうすべきか考えるので数分待ってほしいと言った。そして戻ってくると、筆者の目をまっすぐ見て、こう言った。「ありがとう。そしてあなたは実に素晴らしい。あなたが話してくれた状況はまったく容認できないもので、ただちに是正されるでしょう。あなたが我が社にいることを誇りに思います。あなたを全面的にサポートします」

 安堵すると同時に込み上げる感情に震えながら、彼に劣らず明快な答えを返したことに、我ながら驚いた。「ありがとうございます。未来永劫、ここで全力を尽くします」

 さすがに、未来永劫というわけにはいかなかった。しかし、この上なく実り多い有意義な34年間だった。