
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
パーパスを中心に道徳的共同体を構築する
現代のビジネスリーダーは、世論や国家の危機を無視できないことを知っている。顧客や従業員が社会問題に深く関心を抱いていたり、孤立していると感じていたりする時、道徳心を欠いた他人行儀な態度は問題になる。だが、いざ論争が起きたり危機が勃発したりした時、企業は対応に苦慮してしまう。企業やリーダーは、それぞれの問題に対して、いつ、どのような立場を取るべきなのか。
重要なのは、早めに動くことだ。何かが起きてから対処するのではなく、難題が起こる前に価値観を明確にし、組織で機運を醸成し、社会学者が道徳的共同体と呼ぶものをつくり上げなければならない。
信仰集団や国家など多くの共同体は、フランスの社会学者エミール・デュルケームが言う「神聖なものに関する信念と実践の統一されたシステム」と「共通の道徳的目標」によりまとまっている。ステークホルダーが、共通の道徳観に基づいた目標や信念や行動を受け入れる時、企業は道徳的共同体(モラルコミュニティ)になれる。そして、企業がそうなるべき経済的根拠は、多くの研究によって示されている。
経済面だけでなく、道徳的にも共鳴を呼ぶパーパスやミッションを中核に抱く企業は、そうでない企業よりも高い業績を上げる。なぜなら、そうした企業はパートナーや顧客との間に信頼や誠意のある関係を築き、従業員にイノベーションを促し、加えて実力を最大限に発揮するよう促すからだ。
道徳的共同体という組織のアイデンティティと結びついた明確なパーパスがあれば、社会的な問題について、いつ声を上げるべきで、いつ沈黙を守るべきかを判断しやすくなる。それは組織が世界と関わる際の指針となる。ただし、これをうまく機能させるには、組織の長期的な戦略目標だけでなく、道徳的な内容で、高尚な義務感を示唆し、幅広いステークホルダーに響く志をリーダーが表明する必要がある。そのような志は、相反する道徳意識を持つ人たちを遠ざける可能性もある。だが、そこに留まった大多数の人を鼓舞して、経済的な自己利益を大きく超え、理想のために尽くす忠誠心や結束を生み出すだろう。
筆者が何十人ものリーダーと仕事をしてきた結果、パーパスを中心に道徳的共同体を構築して、優れた業績を上げるためには、3つの重要な戦略があることが明らかになった。
壮大なストーリーを語る
世界中の宗教が、道徳的なメッセージを伝えるために、記憶に残る、共鳴を呼ぶ物語を語る。道徳的共同体をつくっている企業リーダーも、説得力のある物語を語る傾向がある。崇高な目標を示し、その目標に到達するようステークホルダーを鼓舞して、目の前の困難を乗り越えるよう促すのだ。その物語には、リーダー自身の道徳意識が組み込まれることが多い。