「プラットフォーム型ビジネス」が一人勝ちするワケ

 ネットワーク効果の要素は、グーグルにも、アリババにも、テンセントにも、マイクロソフトのビジネスにもある。インターネットが圧倒的に普及し、世界中の人々がつながるようになった世界で「プラットフォーム型ビジネス」が一人勝ちの状況をつくりやすい背景は、実はこのメカニズムがあるからなのだ。マイクロソフトも長い間ウィンドウズがパソコンのOS市場を独占しているが、これもそれが理由だ。アマゾンやアリババがECプラットフォームで圧倒的に強いのもそうだ。

 そしてこのネットワーク効果の帰結は、「独占に近づく方が望ましい」というSCPと整合する。ただし、ポーター=ケイブスの主張との違いは、ティッピング・ポイントを超えた後は、差別化戦略ではなくこのネットワーク効果で独占に向かうことだ。

 裏を返せば、ネットワーク効果で自然に独占を得ているフェイスブックにSNSで真っ向勝負してもなかなか勝ち目はない。したがってSCPを基準に考えるなら、同じSNSでもフェイスブックとは違うグループをつくり(=大幅な差別化を図り)、そのグループ内で新しい独占を図っていくのが望ましい、ということになるだろう。ティックトックや数年前に流行ったスナップチャット、フェイスブックに買収されてしまったが現在も人気の高いインスタグラムなどは、それを狙ったビジネスといえる。

SCPを思考の軸へ

 このように、SCPのエッセンスはすべて「完全競争と完全独占のスペクトラム」に集約されている。自社の周りの競争環境を少しでも独占に近づけた企業が安定して高い超過利潤をあげられる、ということなのだ。差別化やネットワーク効果はその手段にすぎない。SCPの説明力と重要性は、時代を超えてなおも高いのだ。「ポーターの戦略」の名は、これほど知られているにもかかわらず、「なぜ(why)差別化戦略が重要なのか」「なぜ業界構造分析が重要なのか」などには、腹落ちできる説明がなされないことが多い。これらの主張の背景には、すべてSCPがあるのだ。本章を通じて、理論としてのSCPを皆さんの思考の軸としていただきたい。

【動画で見る入山章栄の『世界標準の経営理論』】
SCP理論
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ゲーム理論

【著作紹介】

『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)

世界の経営学では、複雑なビジネス・経営・組織のメカニズムを解き明かすために、「経営理論」が発展してきた。
その膨大な検証の蓄積から、「ビジネスの真理に肉薄している可能性が高い」として生き残ってきた「標準理論」とでも言うべきものが、約30ある。まさに世界の最高レベルの経営学者の、英知の結集である。これは、その標準理論を解放し、可能なかぎり網羅・体系的に、そして圧倒的なわかりやすさでまとめた史上初の書籍である。
本書は、大学生・(社会人)大学院生などには、初めて完全に体系化された「経営理論の教科書」となり、研究者には自身の専門以外の知見を得る「ガイドブック」となり、そしてビジネスパーソンには、ご自身の思考を深め、解放させる「軸」となるだろう。正解のない時代にこそ必要な「思考の軸」を、本書で得てほしい。

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※1 本章はold IOを紹介しているが、その後のnew IOではゲーム理論等を使って、このような企業行動の相互依存関係を精緻に分析し、多くの知見が得られている。例えば寡占状況であっても、一度価格競争に陥ると企業は超過利潤がゼロになるまで価格を引き下げる可能性もよく知られている(ベルトラン・パラドックスという)。ベルトラン・パラドックスについては、第8章で詳しく解説している。

※2 Bain, J. S. 1951. “Relation of Profit Rate to Industry Concentration: American Manufacturing, 1936-1940,” Quarterly Journal of Economics, Vol.65, pp.293-324.

※3 ベインはこの視点をまとめて、1956年にBarriers to New Competition, Harvard University Press. を出版している。

※4 Caves,R. E. & Porter,M. E. 1977.“From Entry Barriers to Mobility Barriers,” Quarterly Journal of Economics, Vol.91, pp241-261.