数字より「コンセプトエッセンス」

 私は1990年代から外食産業に身を置き、オー・ボン・パン、パネラブレッド、そして現在のカヴァという、顔となる3つの外食ブランドの開発に深く関わってきた。その間、経営陣には、私が「コンセプトエッセンス」と呼ぶものを軸にビジネスモデルを構築するよう勧めてきた。それは、なぜ顧客が自分たちの店を選ぶべきかを説明する文書だ。どのような外食店にも必要な、パフォーマンスアート・ライブの台本である。

 私はこれを、パーパスドリブンのGTM(go to market:市場進出)戦略ととらえている。コンセプトエッセンスとは、自社がどのようにして顧客の目にとまるかだけでなく、そもそもなぜそれが顧客に限らず、すべてのステークホルダーにとって重要なのかを説明するものだ。長期の効果的なビジネスモデルを構成する重要な要素である。

 1990年代半ば、パネラブレッドにてこ入れした時、私たちはコンセプトエッセンスを全社的な重要指標として用いた。資本金や営業費用、収益の見込みといった詳細な事業計画に取りかかる前に、まず「お客様のために何をするのか」を軸に、コンセプトエッセンスを作成した。

 最初の焦点は「パン」であり、それは「私たちの情熱、魂であり、専門である」とした。そして、パンと同じくらい上質でおいしい料理を提供したいと考えた。何しろ私たちは、多くの人々が、低価格の割り切ったベーカリーカフェ以上のものを求めていると信じていたので、「お客様や地域社会との関係を通じて信頼を築く」ことを目指した。商業的な冷たいファストフード店ではなく、「お客様の自尊心を満たすクラブ」にしたいと考えたのだ。

 私たちは、ベーカリーに関わるすべての人が「お客様や地域社会の一員」となり、それによって「私たちの提供するパンを信頼してもらう」ことを重視した。また、仕事を済ませたり、友人とおしゃべりしたりするために長居できるような「お客様にとっての日常のオアシス」を追求した。

 コンセプトエッセンスを明文化することは、2つの理由から不可欠だ。第1に、文章にするためには、考えを具体化しなければならない。漠然とした言葉や陳腐な言葉では、せっかくの力強いステートメントも威力が半減してしまう。明確で説得力のある言葉が必要だ。そのビジョンに自分がわくわくできなければ、とても人をわくわくさせ、店に足を運ばせることなどできない。

 第2に、方向性が明確になるため、今後のすべての業務のひな型になる。それは自分に限らず、マネジャー、従業員、製品開発者、デザイナーにとってもそうだ。ビジョンを実現するために雇った全員が、自分の立てた計画をコンセプトエッセンスと照らし合わせ、調整できるようになる。顧客の求めるユニークな体験の提供という目標に、常に目を向けるようになる。それがなければ、従業員は以前のやり方に戻ってしまい、会社は市場で目立つ存在ではなくなってしまうのだ。

 優れた計画がそうであるように、この計画でもトレードオフを強いられることがある。重要な計画には避けられないことだから、自分が正しいと思うトレードオフを行うのが大切だ。後悔は、いずれ仕事に影響する。なぜなら、同じ強さや決意でコンセプトエッセンスを推し進めることができなくなるからだ。

 しかし、いったんコンセプトエッセンスを実現した後は、それがGTM戦略であることを忘れてはならない。重要なのは、具体的な内容よりも価値観だ。コンセプトエッセンスは、従業員が好奇心を持ち続けるよう、共感と想像力をかき立てるものにしなければならない。そうすれば、ユニークな行動を取る複数の顧客に気づいた従業員は、その行動の裏に何があるのかを考えるようになる。たとえば、私たちがサンドイッチの販売を始めたのは、ベーカリーのパンに挟む具材を持ち込む顧客の存在に気づいたからだ。

 従業員は、今後も将来重要になる発見と革新を続けていく。パーパスドリブンのアプローチは、ステークホルダーを巻き込み続けることによって持続的な価値を生み出し、すべての人に利益をもたらす。

 数十年にわたりコンセプトエッセンスを守ってきたおかげで、顧客から高い信頼を得た。私たちは顧客を尊重する体験を生み出し、それを顧客が尊重した。こうした努力の積み重ねによって、顧客は足りないものを求めて私たちを訪れるようになった。私たちのコンセプトエッセンスは、ステークホルダーに自身を超えるパーパスを与えたのだ。

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 市場を分析し、収支を予測し、競合を評価することは悪いことではない。その作業はしていかなければならない。効率性を追求するのであれば、理詰めのアプローチも有効だ。しかし、有能なリーダーになるには、人々にとって重要な意味のあるビジネスモデルが必要だ。利益以上の存在意義を注入しなければならない。そうすれば顧客、従業員、そして最終的には株主から感謝されるだろう。


"Put Meaning at the Center of Your Business Model," HBR.org, November 16, 2023.