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多くのイノベーションは
実は「破壊的」ではない
海外旅行の時代は19世紀中葉に幕を開け、やがて大西洋を横断する船旅が黄金期を迎えた。この業界の覇者となった英国系のキュナード社は、19世紀末から20世紀初めにかけて、欧州から米国への移住を目指す何百万もの人々を助けた。第1次世界大戦後の10年間に、当時繁栄していた北大西洋航路の旅行市場を攻略したため、第2次世界大戦が終結する頃には大西洋横断航路で最大の定期客船会社となり、米国・カナダ行きの12船舶を運航していた。
この黄金時代は、民間のジェット航空便の出現とともに幕を下ろした。1957年には100万人が船舶で大西洋を横断していたが、空の旅の実現を受けて65年には65万人にまで減り、航空機と船舶の利用者比率はおよそ6対1になっていた。船舶はどうあがいても、ジェット機の速度と利便性に太刀打ちできなかった。
ところが、航空機時代の到来を受けてほかのクルーズ船運航会社が立ち行かなくなる中、キュナードは「船上での贅を尽くしたバケーション」を打ち出して、近代的なクルーズ産業を創造したのである。それまでクルーズ船は航空機と同じく、主としてA地点からB地点への移動手段と見なされていた。キュナードは、クルーズ船を娯楽や保養の場、スターが居並ぶエンタテインメントの舞台へと変えることにより、イメージの刷新を果たした。