2023年のサステナビリティをめぐる世界情勢を振り返る
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サマリー:2023年は、我々を取り巻く最大の脅威である気候変動が差し迫った課題となり、科学者は地球の限界を超えたと警告した。その一方、ビジネスにおいてはサステナビリティが主流になりつつあり、多くの企業がみずから取り... もっと見る組むようになっている。本稿では、2023年の中でも特に際立っていたサステナビリティに関する3つのトピックを紹介し、サステナビリティの現状とともに、今後1、2年で大きな話題に発展しそうなテーマを解説する。 閉じる

サステナビリティはビジネスの主流になった

 2023年は厳しい1年だった。世界を取り巻く大きな課題は基本的に悪化するか、少なくとも複雑になった。我々にとって最大の脅威である気候変動は、もはや未来の科学的モデルではない。容赦なく迫り来る、日常的な課題となっている。平均気温の記録はまたしても塗り替えられ、山火事や有害な大気は前例のない範囲に広がり、洪水や嵐が大勢の命を奪った。世界で最もパワフルな(ように見える)女性であるテイラー・スウィフトさえ、猛暑のためにブラジルでのコンサートを延期せざるをえなかった。水の利用可能性、生物多様性、そして言うまでもなく二酸化炭素の排出など重要な分野で、私たちは地球が人間を支えられる能力を超えてしまったと、科学者は警告する。

 良い知らせもある。私たちが十分なスピードで行動できていないとしても、サステナビリティ(持続可能性)がビジネスにおいて主流になりつつあることだ。取り組むことが好ましいのではなく、取り組まなければならないことになった。

 重要な悪い知らせと良い知らせがあるなかで、筆者は楽観的なのか悲観的なのかとよく聞かれるが、簡単に答えることはできない。企業をサステナビリティに向かわせようとする力はかなり強力だが、それでも私たちの行動は十分ではなく、強い圧力も働いている。

 ここに二面性が見える。社会において、私たちは勝利している(かつてないほど多くの企業が行動している)が、同時に敗北している(排出量と不平等は依然として増えている)のだ。クリーンエコノミーが成長し、人権や平等がより注目される一方で、こうした変化を望まない人々は、進歩を遅らせようとしている。筆者が2023年に得た核心的な教訓は、相互に結びついて対立している勢力が陰と陽の関係にあることだ。

 そこで、2023年の中でも特に際立っていた、サステナビリティに関する3つのトピックを見ていこう。ここでの綱引きは、基本的に片方が優位に立っている。つまり、サステナビリティとクリーンテックの側に傾いているが、これらのトレンドも一方的に進行しているわけではけっしてない。

1. 企業を悩ませる反ESGの動き

 「ESG」の明確な定義は難しいところだが、これは持続可能なビジネスに関する最大のトピックだった。環境、社会、ガバナンスの頭文字を取ったESGは、筆者が見るところ、もっぱら金融の世界で、環境と社会問題が企業にもたらすリスクを考える際に使われる言葉だ。これは、ビジネスが社会で果たす役割や繁栄する世界への貢献を含む、より広範なサステナビリティの考え方を示すものではない。