女性の昇進を妨げる原因は、男性目線の評価基準にある
Martin Barraud/Getty Images
サマリー:女性は、新人レベルから上級管理職に至るまで、キャリアにおいていくつもの壁にぶつかる。つまり、キャリアのはしごが外された状態に直面するのだ。こうした問題が発生する大きな要因は、仕事に対する個人の向上心を... もっと見る評価する時、男性中心の定義が使われて、子育てや家事で負担を強いられる女性のキャリアのペースが考慮されていないからだ。本稿では、男性中心の定義に振り回されず、女性が柔軟なペースのキャリアアップを目指すための方法を紹介する。 閉じる

なぜ女性はキャリアのはしごを外されるのか

 マッキンゼー・アンド・カンパニーが2023年秋に発表した報告書「職場における女性」によると、女性は新人レベルから管理職に至るまでの間にいくつもの壁にぶつかるという。この問題は、キャリアのはしごが外された状態と表現されるように、女性の昇進を妨げ、上級管理職に女性が少ない現実につながっている。最も厳しい状況に置かれているのは非白人女性であり、この1年でこれまでの(女性上級管理職の)増加幅が大きく減少したことがわかった。

 グローバル企業の女性の育成・定着を支援する筆者らには、その原因が理解できている。仕事に対する向上心を評価する時、男性中心の定義が使われて、人生のさまざまなステージでいびつに大きな負担(子育てや高齢者介護、家事など)を強いられる女性のキャリアのペースが考慮されていないからだ。男性版の定義に収まらないか、収まるつもりがない人は失格と見なされる。

 米家具eコマース大手ウェイフェアCEOのニラジ・シャーが、2023年12月に従業員たちに送ったメッセージも、同じような考え方に基づいている。もっと長時間、もっと懸命に働くよう促したこのメッセージは、たちまち大きな批判を浴び、「ウェイフェア・メモ」と呼ばれるようになった。この中でシャーは、従業員はハードワークとそれ以外のニーズとのバランスを取る方法を見つける必要があると力説し、「誰もが素晴らしい人生を送る資格があり、誰もが自分なりの方法でそれをやっている。向上心のある人間は、仕事と人生を融合させて、バランスを取る方法を見つけるものだ」と記している。

 女性がワークライフバランスのためにキャリアアップのスピードを落とすと、向上心がないと思われがちだ。上司の頭の中でスイッチが「オフ」になり、そうした女性を重要プロジェクトや会議、会話に参加させなくなる。その一方で、男性版の定義に収まる女性たちは、あまりにも多くの役割を強いられる。つまり女性は、不利な状況やバーンアウト(燃え尽き症候群)に構造的に直面し、仕事とプライベートの両方で多くの役割に対処している。所得は高いものの、柔軟性が乏しいスケジュールで長時間働くことになる「貪欲な仕事」の増加が、このジレンマを拡大させてきた。

 この時点で、多くの女性が上級管理職を目指す道から外れる。2023年のノーベル経済学賞を受賞した、ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディンの研究が示すように、貪欲な仕事は、子どもがいる男女のカップルに、富の創出(カップルの1人が柔軟性のないスケジュールで長時間働く)か、ジェンダー平等(2人とも柔軟に働く)か選ぶことを強いる。

 一般的に女性は、柔軟な働き方に切り替えて、家族の世話の主たる担い手となることにより、キャリアを犠牲にする。昇進のはしごを上るために、健全なワークライフバランスを犠牲にしなければならないなら、上級管理職を目指す価値はないと、多くの女性は考える。仕事に対する向上心はあるが、激務に服従するわけにはいかないし、したくないのだ。

 女性が自分のポテンシャルを認められなかったり、画一的な向上心に対するサポートしかしない企業文化だったりするために会社を辞めるのは、本人だけでなく、会社にとっても損失となる。

考え方を変える

 この問題を解決したい企業がこれまで取ってきた最善の方法は、女性に柔軟な勤務時間を認めることだった。たしかにそれは助けになるが、限界がある。一日のうちいつ働いても、一日が24時間しかない事実は変わらない。依然として女性は、男性よりも多くの時間を家事労働に費やすことを期待されたままなのだ。