型破りなアイデアは、チームではなく「ペア」から生まれる
Kelvin Murray/Getty Images
サマリー:型破りなアイデアを持ち、実現したい人は、チームではなく、ペアで活動するほうがよい。その成功例が、新型コロナウイルスのmRNAワクチンの技術開発で知られるカタリン・カリコだ。彼女のアイデアは、長年支持されな... もっと見るかったが、共同研究者ドリュー・ワイスマンとのパートナーシップを通じて、mRNAワクチン開発につながり、ノーベル賞の受賞に至った。本稿では、ペアでのコラボレーションがいかにイノベーションにつながりやすいかを事例を通じて解説する。 閉じる

「ペア」での活動が、型破りなアイデアを形にする

 あなたは、型破りなアイデアを持っているとしよう。あなたの属する組織や業界で支配的な前提に異議を唱えるアイデアだ。では、それをどのように発展させればよいか。一人で突き進むのは難しい。かと言って、多くの人がクレイジーだと思うようなアイデアを追求するために、組織の中で多くの人が集結することも、チームの組成が認められることも、まずないだろう。

 筆者らの研究によると、そうした急進的な思想家は、ともに進む人をもう一人見つけること、つまりペアで活動することによって、ユニークな組織環境において成長することがわかった。

 生化学者のカタリン・カリコを例に考えていこう。カリコはキャリアの初期に、mRNA(メッセンジャーRNA)を治療に利用する方法を探求したいと考えた。しかし、この技術は主流の科学者からも産業界からも有望ではないと見なされ、推進する人々は無視されていた。彼女も30年間、疎外され、資金を得るのに苦労し、降格、減給、不採用、再出発のサイクルの繰り返しに苦しめられた。

 そうしたハードルを乗り越えるカギになったのが、科学者のドリュー・ワイスマンとの共同研究だった。そして2023年、2人は新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの基盤となる技術を開発して実用化に導いた業績が評価され、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

 画期的なコラボレーションの例はほかにもある(スティーブ・ジョブズとジョナサン・アイヴ、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキー、J.R.R.トールキンとC.S.ルイスなど)。筆者らのインタビューと追加情報に基づく、本稿におけるカリコの物語は、なぜ、そしてどのように、ペアが型破りなアイデアを発展させるのに役立つのか、コラボレーションの落とし穴を避けるにはどうすればよいかを教えてくれる。

なぜ大人数のチームよりペアが好ましいのか

 カリコが歩んできた道のりと、筆者らがこれまで研究してきた他のケースから、型破りなアイデアを発展させるためにペアで働くダイナミクスが、多くの理由から大人数のチームで試みるより効果的であることがわかった。