他人の意見で自分の価値を判断するのはもうやめよう
Gravity Images/Getty Images
サマリー:人間は不確かな状況に陥ると、反射的に「自分は大丈夫か」知りたいという感情にさいなまれる。自分の内面や他人の意見を頼りに、自尊心を保とうとするのだ。自尊心は自分の価値についての中核的な信念であるが、その... もっと見る基準を外からの確認や社会的承認に依存すると、他人の意見に常に脅かされるようになってしまう。そこで本稿では、あなたの自尊心が何に構築されているのかを認識するヒントを提供し、それに左右されず自分に価値があると思えるようになる方法を紹介する。 閉じる

「他人に自分がどう映るか」という不安を克服する

『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の人気記事「他人の評価を気にする自分をどうすれば変えられるか」の著者でパフォーマンス心理学者のマイケル・ジャーヴェイスによると、自分がどう思われるかという不安(ジャーヴェイスは「FOPO」と呼ぶ)は、人間の可能性を最も制限する要因かもしれない。ジャーヴェイスは新著The First Rule of Mastery(未訳)で、FOPOを克服するために必要なメンタルスキルと実践方法を紹介している。本稿はその抜粋(一部編集)で、自分の価値評価を他人に委ねたり、人の承認を求めたりしがちな人間の性質を分析している。

 

 2017年8月、ヒラリー・アレンは神経科学の博士号をまもなく取得しようとしていた。彼女は、スカイランニング(山を駆け上がるウルトラマラソンだ)の世界ランキング第1位でもあった。

 アレンは3カ月間欧州で過ごし、スカイランニングのレースにも参加した。のちに筆者のポッドキャスト『ファインディング・マスタリー』で語ったところによると、その夏最後のレースは、北極圏に位置するノルウェーのトロムソで行われた。アレンが山の尾根を走っていると、あるポイントを曲がったところで、顔見知りのフォトグラファーが写真を撮ろうとしていることに気がついた。どんなに苦しい時も微笑みを絶やさないアレンに、「スマイラー」とあだ名をつけていたフォトグラファーだ。アレンが、「ハーイ、イアン」と声をかけると、彼は、「このコーナーを曲がったところで、大きなスマイルを見せてくれ」と言った。

 それがアレンの最後の記憶だった。踏み込んだ石がぐらりと崩れて、彼女は尾根から45メートルも滑落したのだ。アレンの体はいくつもの岩にぶつかって跳ね返り、垂直に切り立った岩の上に着地した。両手首と両足、背中の第4腰椎と第5腰椎、それに5本の肋骨を含む14本の骨が折れていた。

 その様子を目撃したある選手が、命懸けで崖を降りてアレンの元に駆け寄った。彼女は大きな傷を負っていて、血まみれだった。助からなかったと思い、彼はアレンが生きているか調べようともしなかった。するとアレンが大きく胸を反らして、意識を取り戻した。

 目の前にいる選手を見てアレンが最初に口にした言葉は、「私、大丈夫かしら」だった。