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「他人に自分がどう映るか」という不安を克服する
2017年8月、ヒラリー・アレンは神経科学の博士号をまもなく取得しようとしていた。彼女は、スカイランニング(山を駆け上がるウルトラマラソンだ)の世界ランキング第1位でもあった。
アレンは3カ月間欧州で過ごし、スカイランニングのレースにも参加した。のちに筆者のポッドキャスト『ファインディング・マスタリー』で語ったところによると、その夏最後のレースは、北極圏に位置するノルウェーのトロムソで行われた。アレンが山の尾根を走っていると、あるポイントを曲がったところで、顔見知りのフォトグラファーが写真を撮ろうとしていることに気がついた。どんなに苦しい時も微笑みを絶やさないアレンに、「スマイラー」とあだ名をつけていたフォトグラファーだ。アレンが、「ハーイ、イアン」と声をかけると、彼は、「このコーナーを曲がったところで、大きなスマイルを見せてくれ」と言った。
それがアレンの最後の記憶だった。踏み込んだ石がぐらりと崩れて、彼女は尾根から45メートルも滑落したのだ。アレンの体はいくつもの岩にぶつかって跳ね返り、垂直に切り立った岩の上に着地した。両手首と両足、背中の第4腰椎と第5腰椎、それに5本の肋骨を含む14本の骨が折れていた。
その様子を目撃したある選手が、命懸けで崖を降りてアレンの元に駆け寄った。彼女は大きな傷を負っていて、血まみれだった。助からなかったと思い、彼はアレンが生きているか調べようともしなかった。するとアレンが大きく胸を反らして、意識を取り戻した。
目の前にいる選手を見てアレンが最初に口にした言葉は、「私、大丈夫かしら」だった。