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人はなぜ必ず得するはずの機会を利用しないのか
映画『フィールド・オブ・ドリームス』からよく引用されるセリフ、「つくれば『人は』やってくる」は、「人は自分の利益になるものに迷いなく向かう」ということを暗に示している。得するチャンスを示されたら、誰もがそれをつかむはずだという考えである。
それほど単純なことはめったにない。筆者の一人が、ある女性に、自国のNGOが運営する社会支援プログラムを受ける資格があるにもかかわらず、なぜ申請しないのかと尋ねた時に返ってきた答えには、単に「つくる」だけではまったく不十分である理由が鮮明に物語られていた。
「まず、私は自治会長から一筆もらう必要があります(中略)次に、12ページほどある書類に記入しなければなりません(中略)銀行の明細書も必要です。それから窓口で並ぶのに3、4時間待たされます。この時点で給料が1日分減り、車であちこち走り回るのでお金がかかる。なのに、順番が回ってくるのか、書類を提出できるのか、その保証もないのです」
彼女がこのプログラムで得られる長期的な経済的利益は、行政手続きにかかる短期的なコストをはるかに上回るはずだ。それでも彼女は申請しなかった。
健康保険制度や学習機会、社内報奨、退職貯蓄補助金、企業のさまざまな福利厚生制度など、多くの領域で繰り返し目にする事態だ。文脈はまったく違ったとしても、提起している問題は同じであり、深刻である。「なぜ人は、自分にとって明らかに利益のあることをやらないのか」。そして、「リーダーや意思決定者は、個人がこうした機会をつかむのを阻む、目に見える障壁・見えない障壁をどのように克服させることができるのか」。
コスト、障壁、バイアスの力
筆者の一人(キャス R. サンスティーン)がダフナ・ビアソンと2023年10月に発表した研究から、上記の質問の答えにつながる洞察が得られる。この研究は、物財や便益を受け取る権利のある人がそれを申請して受け取る、あるいは提供されたものを実際に使用するという、「利用」する際の意思決定に焦点を当てたものである。研究の結果、利用を妨げる3つの主要な障壁が明らかになった。