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イノベーションはディスラプションが唯一の道ではない
遠隔歯科治療を手掛ける米国企業スマイルダイレクトクラブ(SDC)は、かつてその評価額が約90億ドルに上り、従来の歯列矯正装置業界に破壊(ディスラプション)をもたらす存在と思われた。ところが2023年12月、同社は破産する。
SDCは歯列矯正の画期的なソリューションを提供していた。約1800ドルという低価格(標準的な治療費は3000~6000ドル)、6カ月という短い治療期間(標準的な治療期間は約2年)、通院不要、そして着脱式の透明なアライナーという好条件を揃えたSDCは当然、上昇気流に乗る。2014年の設立以来、200万人から成る顧客基盤が従来の歯列矯正装置ではなくSDCを選んでいった。
そうした驚異的な成長にもかかわらず、イノベーションを起こしたこの企業はなぜ倒産したのだろうか。
SDCの成功によって大勢の顧客が歯科専門医の元からいったん離れたものの、やがて戻ってくる。SDCのディスラプティブな戦略に脅威を覚えた歯科医たちが、規制当局と手を組んで対抗したのである。SDCの品質と治療の安全性に疑問が投げかけられたことをきっかけに訴訟が起こり、規制当局の調査が入り、メディアから好ましくない注目を浴びるようになった。訴訟の高額な費用と時間、そして評判に関するダメージを和らげ、新しい顧客を引き寄せるための膨大な広告費も相まって、SDCの借金は増大した。2019年9月の株式公開から4年後、膨れ上がった借金ゆえにSDCは破綻に至る。
マネジャーや起業家は、直観的にディスラプションに魅力を感じる。ディスラプションの対象となる業界は、既知の市場に、明確な規模のターゲットを有し、人々が喜んでお金を出すことが証明されている既知のニーズを扱う。ただし、SDCのケースのように、既存業界のコアに当たるものをディスラプティブなソリューションの標的にすると、往々にして、定着した既存企業やそのほかの既得権益者からの強固な抵抗や直接的な対立を招く。ディスラプションを実現したい企業は、精神面でも戦略面でもそれに備える必要がある。
マネジャーは、イノベーションと成長に関しては、ディスラプションが唯一の道ではないことを認識すべきである。ディスラプションのない創造、すなわち非ディスラプティブな創造は、既存業界の垣根の外側あるいはそれを超えたところに新しい市場をつくり出し、組織面とビジネス面で固有の利点を持っている。以下で、大まかに説明していこう。