なぜフランスの伝統的なパン屋は競合の近くに出店するのか
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サマリー:ビジネスの世界では一般的に、商品を差別化する余地が限られている類似企業が近くにあると、企業同士の競争は激しくなる。しかし、フランスにあるパン屋の立地戦略を19年間にわたり筆者らが分析した結果、伝統的なパ... もっと見るン屋は意図的に歴史の浅い現代的なパン屋の近くに出店することが多いとわかった。この選択は、伝統的なパン屋がみずからの特徴を際立たせ、競争を生き抜くための戦略といえる。 閉じる

歴史の浅い同業他社の近くにあえて出店する理由

 フランスの伝統的なパン屋(ブーランジェリー)は、どの店も閉店に追い込まれてしまう可能性がある。まず、パンという商品は単価が安く、価格によって競争する余地が乏しい。また、原材料には規制がある。たとえば、パン・トラディショネル(最も伝統的なバゲット)の材料は、小麦粉、水、塩、イーストだけと法律で決まっている。「伝統的なパンづくり」をアピールしようとすれば、さらに多くの制約がかかる。伝統的なパン屋は、消費者には見えない場所で、時間やコストを節約する手法を導入すること(ミックスや冷凍生地を使用するなど)が許されていないからだ。ところが、こうした不利な条件があるにもかかわらず、伝統的なパン屋はフランスのパン市場で大きなシェアを維持している。

 現代的なパン屋が効率的な生産技術を駆使する中、なぜそのようなことが可能なのか。そこでリヨン市におけるパン屋の競争を筆者らが19年間研究したところ、戦略的な立地がカギであることがわかった。この研究から得られた教訓は、伝統や価値観をアピールポイントにしているにもかかわらず、消費者から見ると競合他社との差別化が難しい多くの企業にとって、大いに参考になるだろう。

 伝統的なパン屋と現代的なパン屋の競争をさらに詳しく知るために、我々は1998~2017年のフランスの食の都リヨン市内にあるパン屋177店の立地戦略を分析した。これにはアーカイブデータに基づく回帰分析や実験、そして両方のタイプのパン屋への聞き取り調査も含まれる。