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ワーカホリックを生み出す文化に目を背けていないか
私たちと仕事との関係は、不健康なものになりつつある。燃え尽き症候群(バーンアウト)やストレスのレベルは過去最悪だ。コロナ禍の前でさえ、世界保健機関(WHO)はストレスを「21世紀のエピデミック」としていた。では、ストレスの最大の原因は何か。それは仕事だ。マイクロソフトが、PCのタイピングに基づくデータと、会議アプリTeams(チームズ)のチャット機能の使用状況を分析したところ、2つの懸念される傾向が明らかになった。コロナ期は、夕方以降(たいてい就寝前の数時間)に仕事をする人が多かった。また、週末にやり取りされる仕事に関連するメッセージは、コロナ禍前よりも200%増えた。あれから3年が経ったが、コロナ期にできあがった仕事のパターンが定着してきた。
家が職場になると、仕事と生活の境界線が曖昧になり、いつのまにか仕事が増えている新しい現実に、私たちは慣れてしまった。悪い習慣は抜け出すことが難しい。また、既存のスケジュールに加え、仕事量が増加し、仕事への接続性が高まり、そして連絡パターンの変化が加わって、労働時間が長くなった。つまり、これまでにないほど仕事につながったままなのである。その結果、過重労働は過去最悪となり、新しい仕事の現実によってさらに悪化しつつある。
産業心理学では、この現象に「ワーカホリック」(仕事中毒)という無粋な名称がついている。ワーカホリックとは、必ずしも長時間働く人のことではない。実際、労働時間と、問題のある「過重労働」、つまりワーカホリックの相関関係は乏しい。ワーカホリックとは、自分を仕事から切り離すことができない有害な状態のことだ。
思考や行動が仕事に支配されて、人生のほかの側面や人間関係、そして健康に悪影響が生じる。ただ、これは臨床的な診断ではない。米精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)にも、ワーカホリックの項目はない。だが、ワーカホリックを深く分析した文献には説得力がある。ワーカホリックは、それを経験する人にとっても、その人が働く組織にとっても有害だ。それなのに組織は、意図せずそれを助長していることが多い。