あなたの会社に仕事中毒を生み出す文化はないか
Juan Moyano/Stocksy
サマリー:コロナ禍で仕事と生活の境界が曖昧になった。仕事の量が増加し、週末や夕方以降も働く人が増えたことで、「ワーカホリック」(仕事中毒)現象が広がり、多くの組織は意図せずにそれを助長している。過重労働は個人だ... もっと見るけでなく組織にとっても有害だが、組織の抵抗により変革は困難である。本稿では、そうした状況下でもワーカホリック文化を克服するための方法を3つのステップで解説する。 閉じる

ワーカホリックを生み出す文化に目を背けていないか

 ジョージア大学准教授で、ヘルシーワーク・ラボを率いるマリッサ・クラークは、アフターコロナの仕事環境は、場所と時間の両面で、仕事とプライベートの境界が曖昧になったと主張する。クラークは新著Never Not Working(未訳)で、現在蔓延している過重労働の問題と、その最悪のケースがどのようなものか、そして知らずしらずのうちに従業員がどのように消耗しているかを説明する。以下で紹介する同書の抜粋(編集されている)では、組織が過重労働の文化を是正して、従業員のウェルビーイングを高めるために取るべき明確な措置を概説している。

 

 私たちと仕事との関係は、不健康なものになりつつある。燃え尽き症候群(バーンアウト)やストレスのレベルは過去最悪だ。コロナ禍の前でさえ、世界保健機関(WHO)はストレスを「21世紀のエピデミック」としていた。では、ストレスの最大の原因は何か。それは仕事だ。マイクロソフトが、PCのタイピングに基づくデータと、会議アプリTeams(チームズ)のチャット機能の使用状況を分析したところ、2つの懸念される傾向が明らかになった。コロナ期は、夕方以降(たいてい就寝前の数時間)に仕事をする人が多かった。また、週末にやり取りされる仕事に関連するメッセージは、コロナ禍前よりも200%増えた。あれから3年が経ったが、コロナ期にできあがった仕事のパターンが定着してきた。

 家が職場になると、仕事と生活の境界線が曖昧になり、いつのまにか仕事が増えている新しい現実に、私たちは慣れてしまった。悪い習慣は抜け出すことが難しい。また、既存のスケジュールに加え、仕事量が増加し、仕事への接続性が高まり、そして連絡パターンの変化が加わって、労働時間が長くなった。つまり、これまでにないほど仕事につながったままなのである。その結果、過重労働は過去最悪となり、新しい仕事の現実によってさらに悪化しつつある。

 産業心理学では、この現象に「ワーカホリック」(仕事中毒)という無粋な名称がついている。ワーカホリックとは、必ずしも長時間働く人のことではない。実際、労働時間と、問題のある「過重労働」、つまりワーカホリックの相関関係は乏しい。ワーカホリックとは、自分を仕事から切り離すことができない有害な状態のことだ。

 思考や行動が仕事に支配されて、人生のほかの側面や人間関係、そして健康に悪影響が生じる。ただ、これは臨床的な診断ではない。米精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)にも、ワーカホリックの項目はない。だが、ワーカホリックを深く分析した文献には説得力がある。ワーカホリックは、それを経験する人にとっても、その人が働く組織にとっても有害だ。それなのに組織は、意図せずそれを助長していることが多い。