ピクサーに学ぶ、弱さをさらけ出せる職場のつくり方
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サマリー:働く人の多くが、自信を失い、悲しみや絶望を味わうという経験をしている。そうした時、専門家は弱さをさらけ出すように推奨するが、それは誰にとっても簡単なことではない。特に、女性や有色人種、その他の不利な立... もっと見る場に置かれている人にとって難しいものだ。そこで本稿では、ピクサーでの事例をもとに、従業員が自信を喪失した時に戦略的に弱さをさらけ出す方法と、会社のリーダーがどう働きかければ従業員が安心して弱さをさらけ出せるようになるかを解説する。 閉じる

「弱さ」をさらけ出すのは簡単ではない

 ピクサー・アニメーション・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるピート・ドクターは、新進気鋭のリーダーや映画制作者を指導する際に、ストーリーテリングのスキルを発揮する。彼はかつて、ピクサーのリーダーシップ・メンター・プログラムに参加したメンティ22人に、映画『インサイド・ヘッド』の監督を務めていた際に経験した、自信の喪失について率直に語ったことがある。

 この映画はある少女を中心に展開し、メインキャラクターは「ヨロコビ」を中心とした彼女の頭の中の感情だ。ストーリーを完成させるのに苦労したドクターは、3年間にも及ぶ「暗闇のトンネル」の中にいた。自分が駄目な人間のように思え、解雇されると確信していたという。悲しみと絶望の淵で、彼は突破口となる気づきを得た。「カナシミ」のキャラクターがさらに重要な役割を果たす必要があったのだ。

 彼はその話をメンティらと共有し、彼らが避けることのできない自信の喪失はクリエイティブなプロセスには付き物であり、失敗ではなく、すべての人に共通した経験であることを理解させた。

 専門家は弱さをさらけ出すように推奨するが、それは誰にとってもそう簡単なことではない。女性、有色人種、その他の疎外されたグループの人々は、仕事で自分の能力を証明することに関してすでに不利な立場に置かれている。彼らにとって、弱さを見せることは危険なことだ。Unlearning Silence(未訳)の著者であるエレイン・リン・ヘリングは、「この助言は、私のようなアイデンティティを持った人には望むべくもない贅沢なものだ」と述べている。

 筆者が知る、大手ハイテク企業で頭角を現している若い女性リーダーについて考えてみよう。彼女は、自分を偽らずに弱さを見せるべきだというアドバイスに触発され、自分にはインポスター症候群(編注:周囲から評価されても、自分にはそれほどの実力はないと過小評価してしまう心理的傾向)の気があるとシニアリーダー数人に打ち明けた。残念ながら、相手の反応は手厳しいものだった。より高いレベルが期待される自信とリーダーシッププレゼンスが欠如していると認識されたのだ。

 仕事とプライベートの境界線が曖昧になり、個人的なストーリーを共有することが一般的になるにつれ、組織内の地位が低い人は、注意深く、意図を持ってこの領域をうまく切り抜けることが不可欠となる。研究によると、職場でより本当の自分でいられると感じることは、より大きなウェルビーイングと帰属意識につながることが示唆されている。

 これとは対照的に、本来の自分を隠すことは息苦しさを感じ、より安全な職場環境を探すことにつながる。さらに、自分を沈黙させることによる健康への影響も研究で明らかになっている。常に計算をし、厳戒態勢を取っていると、認知的な負荷で疲弊してしまう。

 自分を偽らないことが犠牲を伴い、本当の自分を隠すことがその解決策ではないとしたら、どうすればよいのだろうか。本稿では、従業員が自信を喪失した時に戦略的に弱さをさらけ出す方法と、どうすれば会社のリーダーは従業員が安心して弱さをさらけ出せるようにできるのか、その方法を解説する。