会議におけるAIツールの活用が参加者にもたらす功罪
Illustration by Virginia Gabrielli
サマリー:生成AI(人工知能)ツールの普及は、生産性やフィードバックの面でメリットをもたらす一方で、会話の質や理解の深さに想定外の影響を及ぼす可能性がある。組織には、誰が話す権利を持ち、誰が聞いてもらう権利を持つ... もっと見るのか、権力差の認識を通じて染みついた習慣がある。その習慣を反映した組織文化の特定の文脈において、テクノロジーの使われ方に由来する機会と潜在的問題を検討しなければならない。本稿では、権力差を前提とした組織におけるAIの有効な活用について、5つの密接に関連する領域に焦点を当てて解説する。 閉じる

組織には権力差を前提としたコミュニケーションがある

 生成AI(人工知能)は、これまでに登場したどのテクノロジーよりも急速に普及している。AIのアプリケーションが職場の文化と権力に浸透していく中、私たちが何を話し、誰に耳を傾けるのかを方向づける会話習慣に、生成AIツールが及ぼしうる影響が見え始めている。

 よく使われているツールに、AIを駆使したフィードバックを追加する機能がすでに登場している。ズームの「AIコンパニオン」は、会議に遅れて来た人に、聞き逃した内容を教えてくれる。チームズで「コパイロット」を使うと、議論の要点を要約してくれる。

 リードAI(Read AI:会話の記録、文字起こし、分析をして要約を作成する優れたAIツール)はさらに先を行き、会議参加者のエンゲージメント(関与と関心の度合い)、感情、発言時間などを測定する。これらのアプリケーションは極めてシームレスに仕事に統合できるため、ほとんど気づかずに使い始めているユーザーもいる。

 上述したようなツールは生産性とフィードバックの面でメリットをもたらすが、私たちの会話に参加させることで生じるデメリットもある。人々が聞く作業の大部分をテクノロジーに外部委託して、重要なメッセージについて自分で考え抜く作業を省略すれば、会議は効率的になるかもしれないが、理解と行動へのコミットメントは不足する可能性がある。

 筆者らの見るところ、多くの組織では、AIを活用した会話をどのように行うべきか、およびリスクの軽減とメリットの最大化について議論されていない。テクノロジーを無関心のまま受け入れ、無批判に導入し、結果的に特定の話題が闇に埋もれたり、人々が沈黙を迫られたりするなどの問題が生じた場合、それはハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授のエイミー・エドモンドソンが言う「知的な失敗」ではない。

 新しい領域に踏み込む時には、会話の失敗は避けられないものだ。ただし、それらを知的な失敗とするためには、実験の前に入念な下調べを行い、選択の際に慎重に検討し、結果を予測しなくてはならない。

 本稿では、権力者に真実を話すことに関する筆者らの10年にわたる研究をもとに、AI使用時の会話のあり方と、AIに関する議論のあり方に注意を払う必要性を提唱する。組織には、誰が話す権利を持ち、誰が聞いてもらう権利を持つのかについて、権力差の認識を通じて染みついた習慣がある。その習慣を反映した組織文化の特定の状況における、テクノロジーの使われ方に由来する機会と潜在的問題を本稿では検討する。特に5つの密接に関連し合う領域に焦点を当てる。

誰が話し、誰が聞いてもらえるのか

 誰が発言時間を多く取り、誰が話をさえぎられ、誰がさえぎるのか、その場の誰もが何となく気づくものだ。AIは発言の割合に関するハードデータを提供することで、その感覚を事実として把握できるようにする。発言時間を取りすぎる人は、好奇心と前向きな意図を持つことによって、発言を控えめにして他者のために機会を設けようという気になるかもしれない。