ビヨンセに学ぶ、職場で排除された時の対処法
HBR Staff/Kevin Winter/Getty Images
サマリー:2016年にビヨンセが米カントリーミュージック協会賞を授賞した時、カントリーミュージックのファンから大きな反発を受けた。それは、彼女が起こしたイノベーションに対する批判には見えなかった。つまり、人種差別的... もっと見るな反応だったのだ。このような、周囲から受け入れられない「排除された」と感じる経験は、職場でも生まれるものだ。本稿では、ビヨンセが批判を受けた時の対応から学べる、職場で排除された時の対処法を紹介する。 閉じる

ビヨンセが「排除された」時に歩んだ道のり

 世界的に尊敬を集める歌手であり、ソングライターかつ起業家でもあるビヨンセが、新しいアルバム『カウボーイ・カーター』を発表したのは2024年3月末のことだ。しかし、このプロジェクトは、単なる大スターの新作発表というだけでなく、職場における排除にどう対処するかのケーススタディも提供している。

 ビヨンセは、このアルバムは「歓迎されていないと感じた経験」から生まれたと、『カウボーイ・カーター』を紹介するインスタグラムの投稿に書いている。その経験が、2016年の米カントリーミュージック協会(CMA)賞の授賞式でのエピソードを指しているのは間違いない。

 この時ビヨンセが、カントリー界の大御所ザ・チックス(旧称ディクシー・チックス)と共演したところ、往年のカントリーミュージックファンは激怒して、彼女の政治的姿勢から衣装、ジャンルとの関連性の欠如まで、ありとあらゆることを批判した。ビヨンセはカントリーミュージックにとって重要な都市の一つであるテキサス州ヒューストンで育ち、両親はテキサス州とアラバマ州の出身だ。また、この時のザ・チックスとのパフォーマンスは、15分間というCMAアワード授賞式史上最高の視聴率を叩き出した。なお、前年の2015年にポップスとR&B歌手の(しかし白人の)ジャスティン・ティンバーレイクが出演した時には賞賛を受けていたことなど、誰も気に留めていない。

 ビヨンセは、米国で最も権威のある音楽賞とされるグラミー賞の史上最多受賞者(ただし最も重要とされる最優秀アルバム賞は受賞したことがない)だが、偏見や批判とは無縁ではない。2022年4月のアイハートラジオアワード授賞式で、「イノベーターであるということは、誰もが不可能だと思っていることを目指すことであり、それはしばしば批判されることを意味し(中略)メンタルの強さを試されるものだ」と語っている。だが、彼女がCMAアワード授賞式に出演した時の世間の反応は、イノベーターならではの困難とは異なるものだった。つまり明確に言うと、人種差別的だと感じられたのだ。それ対して、ビヨンセは時間をかけて答えを示した。

 ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)の研究者および実務家である筆者らは、ビヨンセのエピソードは、職場で同じように排除的な扱いを受けている人たちにとっても重要な教訓だと考えている。大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)の2023年の調査によると、全世界の回答者の75%が、職場で排除されていると感じたことがあると答えた。ビヨンセほどのパワーとプラットフォームを持つ人はめったにいないが、彼女が受けた排除と、それに対処するための選択肢、そして彼女が最終的に選んだ道の有効性を探ることから、誰もが恩恵を受けることができるだろう。

排除された経験の解剖

 ビヨンセがカントリーミュージックのファンから排除された理由は、主に次の3つのカテゴリーに分類できる。これらは職場でも見られるものである。